◇◆◇最後の夏桜◇◆◇

最後のサクラ大戦歌謡ショウ
五周年記念公演「海神別荘」の
レポートです。



〜第一部〜


 これは久美さん演じるアイリス中心に観たレポートです。何分にも説明が不得手なため、至らない部分もありますが、どうぞお付き合い下さい。
 因みにDVDの方が後ほど発売になります。そちらが初見になる方は、ネタバレになってしまうので、読まない方が楽しめるかと思います。


 某所で久美さんがおっしゃっていた通り、今年の歌謡ショウのアイリスは見せ場も多く、随所でおいしいところを持っていく役どころでした。また、アイリスの可愛らしさ、魅力が存分に発揮された舞台でもありました。


オープニング「花組レビュウ!」

 華やかな前奏と共に幕が上がると、舞台を埋め尽くす沢山のダンサーたち。そして階段の上には、花組の姿。「紅蜥蜴」の時のピンクとブルーを基調としたレビュウ衣装に、ピンク色の大きな羽根を背負った、輝かんばかりの出で立ちでした。
 振り付けは歌詞にぴったり合ったメルヘンチックなもので、アイリスのみ形の違う、スカート丈の少し短いレビュウ衣装に身を包んで踊る姿は、どこにいても目が追ってしまうほどに、可愛かったです。
 間奏になると、花組は二手に分かれ、舞台両サイドへ。アイリスは向かって右側で、中央で踊るダンサーを立てるように腕を広げていました。そして!
 今回の歌謡ショウでは、オーケストラピットの更に手前に、銀橋(エプロンステージ)という、幅1〜2メートルほどの空間がステージより伸びているのですが、最前列からは手を伸ばせば届くほどの距離に、花組が出てきたのです。アイリスは紅蘭の隣、中央よりちょっと右側。
 前奏のメロディと共にゆっくりと前に出てきて、皆と一緒に片膝を立てて屈み、紅蘭のソロを立てます。続いてアイリスのソロ。立ち上がり、メルヘンチックな振りを付けて歌うその様子は、掲げた手の平からきらきらと光の粒がこぼれ落ちていくかのように、美しいものでした。
 やがてマリアが歌うと同時に、皆、元のステージに戻っていき、サビに入り、笑顔でエンディングを迎えます。


序幕

 暗闇の中、お盆の提灯行列の明かりが歌と共に流れていき、杏菜ちゃん演じる、置いてけぼりにされた女の子が追い掛けていきます。
 舞台左袖よりかえでさんが、その様子を微笑ましく眺めながら登場。続いて金田先生も登場。かえでさんがつかまえ、芝居の演目が急遽、「海神別荘」に変わり、その脚本を三日で仕上げてほしいと、無謀なお願いをします。そこへ、ダンディボスが現れ、温泉で原稿を書きましょうということに。
 「バスは行く行く夢乗せて」が始まり、バスが右から左へと進む中、かえでさんとダンディボスが歌い、踊ります。


第一幕

 左には見返り稲荷神社と鳥居、右には稲荷寿司屋さん、中央には石段。一人の女性(山沢のりさん)が稲荷寿司を買いに来ます。が、店の主人は留守の様子。お金を置いて、稲荷寿司をもらい、神社のお稲荷さんの前にお供えします。と、三味線を弾きながら、東中軒雲国斎(国本武春さん)が登場。稲荷寿司と神社について唄い、大帝国劇場の場所を尋ねます。そして立ち去る時に、「ゲキテイ」をさらっと三味線で流していきます。趣あって個人的にはかなり好きなのですが、拍手で掻き消されてしまうことが多かったのが、ちょっぴり残念でした。

 女性も立ち去ると、レニと織姫が中央の石段から下りてきます。すみれに、夏は暑いから桜餅を食べましょう(?笑)、と電話で言われ、張明寺に集まることになった花組。織姫は文句たらたらで、そんな彼女をレニは本来のレニとは思えぬほどの(新春歌謡ショウのノリが残っているかのような)、からっと明るくも適当な調子で、なだめすかします。
 そしてCDには入っていなかったレニのソロが入ります。「物語はいつも……いい加減〜」と、とっても愉しい雰囲気の歌でした。
 改めて張明寺に出かけようとするレニと織姫。そこに、サンバのリズム(プラスお客さんの拍手)と共に、ベロムーチョ武田が登場。稲荷寿司屋の松吉の借金の取り立てに来たところ。が、子供騙しの嘘で体良く逃げられ、追っかけていく武田を、更に織姫とレニが追い掛けていきます。

 左手より、慌てふためいた調子でさくらが登場。大切なお守りを無くしてしまい、必死に探しているところ。後から一緒に探しているマリアが現れ、状況を確認し合い、力強く励まします。そして二人は階段を登り、別な場所へと探しに行きます。

 続いて左手より紅蘭。同じくお守りを探しています。その後からアイリスが、可愛らしく屈んだ体勢で現れます。いつものように背中にはジャンポール。そしてアイリスにはやっぱり一番、似合う、黄色い夏服。
 私は、アイリスが出てきただけで、観る方向は一つになってしまい、幸せな気持ちになってしまうので、アイリスが舞台に出ている時の描写については正直、自信がありませんが、大体の感じを受け取ってもらえたら幸いです。

 さくらのお守りを探しているアイリスでしたが、稲荷寿司屋の店先で、薄茶色の円盤(ほうろく)を見つけ、「これなにー?」と紅蘭に尋ねます。ほうろくと答えてくる紅蘭に、アイリスはおうむ返しに聞き返します。因みに千秋楽では、「もうろくー?」と聞き返し、紅蘭がぼけ倒すネタが入っていました。
 お豆などを炒る道具だと、ほうろくについて説明する紅蘭と、微笑ましいやり取りをするアイリス。すると、紅蘭がもうすぐお盆であることをしみじみと口にします。アイリスは戸惑うように紅蘭の背中を追い、「ああん、分かんないー!」と、ダダをこねるように言います。
 先祖の霊を迎える儀式と説明してあげる紅蘭でしたが、そこで両手を前に伸ばし、ぴょんぴょんと飛び跳ね(キョンシーの真似)ます。アイリスも楽しげにそれに倣います。そして紅蘭が「先祖の霊にれいっ」と、両手を重ね合わせて前に突き出し、小さくお辞儀をすると、アイリスもまたそれに倣って、膝をちょっと曲げ、「れいっ」とお辞儀します。このシーンのアイリスの、クライマックスの可愛いところです。

 アイリスは店の縁側へと戻り、ほうろくを高く掲げ、楽しそうに足踏みするようにゆっくりと回ります。続いてアイリスの目に留まったのは、キュウリとナスに割箸が刺さったもの。今度はアイリス、カンナに、「あっ、ねえねえカンナ、これなに?」とキュウリとナスを持って尋ねます。「こっちはぶたさんかなあ、ぶうぶう」とナスを動かすところが非常に可愛かったです。これが一番のお気に入りの台詞という方もいらっしゃったほどです。確か初日は、「ぶうぶう」という部分はありませんでした。
 カンナが馬と牛を表しているのだと説明すると、アイリスは感激して「凄いね……! 凄いよ、日本は!」と声を大きく言います。そういやアイリスはフランス人だったなとカンナが言い、紅蘭が西洋と東洋の物の見方の違いを説きます。東洋は複雑怪奇、特に日本というこの国はな、という言葉に対し、二度目のアイリス「分かんないー!」。今度はぐるっと大きく回ります。スカートがふわっと舞い上がる、おなじみの可愛い仕草です。
 妙なたとえを用いつつ、分かりやすく説明しようとする紅蘭。レモネードを真似たラムネを飲むっちゅう国ということやな、で、アイリスは「でたらめなんだね!」と、笑顔で合点します。

 カンナが随分と父の墓参りをしていないという話から、再びお守りを探し始める三人。やがて紅蘭が自分の発明で!と持ち出そうとしたその矢先、アイリスが「そうだ!」と前に出てきます。「新しいの買ってあげればいいよ!」とカンナに提案します。するとカンナは、そういう訳にもいかねえんだと応えます。が、「ボロボロだったし、新しい方がいいよー」と無邪気に言うアイリス。あのお守りにはさくらの父さんの魂が入っているんだと言われても、まだ小さいアイリスは首を傾げるばかり。この辺の久美さんの演技は、本当、凄かったです。紛れも無く十一歳の少女で、物の道理が分からず、全く悪気が無いけれど、簡単にそんなことを言ってしまう。私は「愛ゆえに」の頃から歌謡ショウのアイリスを見ていますが、今までで一番、久美さんってアイリスだ(意味は分かるでしょうか?)、と強く感じました。
 困るカンナに紅蘭が助け船を出します。大切なジャンポールが無くなったとして、という例えです。アイリスの背からジャンポールを取り、カンナを呼び付ける紅蘭。そして察するカンナ。ジャンポールの代わりに、カンナがアイリスの背におぶさります。きょとんとするアイリス。「いやだー!」と叫んで、カンナを下ろし、慌ててジャンポールを背負い直します(笑)。
 再び探しに掛かる、アイリスと紅蘭。人間は考えるあしだからな、というカンナの台詞と共に、「考える足」が始まります。この曲は、今年の歌謡ショウ中、久美さんにとって、最も難しい振りだったのではないかと思います。凄く激しい動き、しかも複雑。緩急も多彩。ダンサーさんたちと横一列に並び、腕を複雑にスピーディに絡ませてみたり。そして何より愉しげに。久美さんの振りは、本当、素晴らしかったです。何度、見ても見飽きない、存分に目を楽しませてくれました。因みに千秋楽では、ラストの「デューワー」が、「ドーアー」に変わっていました。歌謡ショウでトラブルと言えば?と聞かれれば、真っ先に思い付くであろうドアノブのことをネタにしたのでしょう。まさかここに千秋楽ネタが入ってくるとは思わなかったので、本当、胸がすく楽しさがありました。五周年記念、歌謡ショウとしてはラスト、それに相応しい、ある意味、総決算なネタでもありました。
 歌が終わり、「かんが、かんが」と腕と足を愉快に上げ下げしながら、お守りを探しに出かけるアイリスと紅蘭。早く行けよ!とカンナに急かされ(笑)、舞台右手へと走り去ります。

 一人になったカンナ……。「ぽてと」(さてと)と、最早、夏の歌謡ショウの風物詩と化した台詞(笑)を独りごち、稲荷寿司屋で腹ごしらえをしようとします。が、お金を忘れたことに気付き、さてどうしようということに・・・。と、そこでカンナの目はお稲荷さんに前に供えられた稲荷寿司に釘付けになります。「食っちゃえ食っちゃえ」(悪魔のカンナ?)と「いけないわカンナ」(天使のカンナ)がせめぎあい(笑)、結局「食っちゃえの勝ちー!」になり、カンナは左右のお稲荷さんの前にある稲荷寿司を両方とも食べてしまいます。因みにこれは日によって時々、チョコレート味だったり、トマト味だったり、また千秋楽ではジャンボサイズだったりしました。商売に身を入れない店主が作った稲荷寿司はまずく、これならばちも当たらないだろうということで、気楽な調子で、階段を駆け上り、カンナは走り去ります。

 双眼鏡を当てながら大神が登場。「ヨーソロー」などと独り言い、海軍学校在籍時のことでも思い出している様子。花組の皆を探しているが、張明寺にはおらず、ここまでやって来た。と、舞台左手より、西村、琴音さん、菊之丞が登場。思わず、お稲荷さんの陰に隠れる大神。昔、歌手になりたかったという西村の身の上話。琴音さんが、今からでも夢は叶えられると励まします。それに感動して大神が割り込み、CDには収録されていなかった歌が始まります。西村、琴音さん、菊之丞の三人による濃い歌(笑)が終わると、西村のおごりで、皆で飲みに行くことに。

 舞台右手よりすみれが登場。待ち合わせ場所の張明寺に誰もおらず、ぼやいています。すると突然、「いなりずし返せ〜」という声がどこからともなく響き渡ります。舞台が暗くなり、おどろおどろしい効果音と煙と共に、白狐の霊の登場です。これは日替わりゲストで、それぞれ持ち味を存分に発揮しつつ、花組とのやり取りも変わっていました。ここでのすみれの反応もそれぞれで、ラサール石井さんはタヌキ扱い、島崎俊郎さんはアダモちゃん扱い、そしてそして、よっちゃんこと清水よし子さんは、「その声はアイリス!?」。ということで、よっちゃんとアイリスのやり取りは後述しますが、アイリスファンにとって最も幸せなゲストはよっちゃんでした。
 白狐の霊は稲荷寿司を盗んだのはすみれだと勘違いし、けん族(5匹の白狐)を差し向けます。最初は華麗にさばていたすみれでしたが、やがて、白狐の霊の強力な霊力により、身体の自由を奪われ、神社のほこらの中へと引きずり込まれていきます。ここでの効果音や照明との相乗効果による演出は、とても迫力あるものでした。高鳴る拍子木の音と共にほこらが閉じられ、舞台が明るくなり、蝉の声が舞台を一気に何気無い日常へと戻します。

 舞台右手より、親方が大八車を引いて現れます。荷台には大量の金だらい。見つけた稲荷寿司屋の軒先で一休みします。舞台の小道具として集めてきた、たらい。一体、何に使われるんだろうと疑問に思いながら、舞台は暗転し、右手にスポットライトが当てられます。そこは旅館の一室。浴衣姿のかえでさんと金田金四郎、ダンディボスの会話です。泉鏡花の脚本にうっとりしているかえでさん。今回の舞台の打ち合わせをするうち、小道具のたらいを疑問視します。含み笑いする金田。そこで照明は稲荷寿司屋の方へと切り替わります。
 松吉が店へと逃げ込み、彼を見失った武田が現れます。親方を見つけ、横に座ります。武田も荷台いっぱいのたらに疑問を持った様子。親方も武田も思い付くのは、上から金だらいを落とすべたべたのギャグ。と、花組さんがたらいのギャグなんて、と笑い飛ばす武田の頭上に、そのたらいが落っこちてきます(笑)。因みに千秋楽では、この一発目のたらいの後、後ろから、待ち構えていた黒子さんがたらいで殴っていきました(笑)。
 照明は旅館側へ。爆笑している金田に向かって、かえでさんは金だらいを冷たく却下します。話は変わり、今回の五周年公演、かつて役者だった親方を舞台に立たせたいと、金田はかえでさんに頼み込みます。千秋楽では、「劇団21世紀FOX」だったというネタも(笑)。熱意に押され、了承するかえでさん。更に金田は、かえでさんも舞台に、と持ち掛けてきます。ダンディボスにも押され、とうとう折れるかえでさん。そして今度はかえでさんが逆に持ち掛けます。薔薇組も出しましょう、と。腰元の役ということで、かえでさんは可愛らしく腰元の真似なんかしたりして、二人に笑われ、旅館の場面は終了。親方も、大八車を引いて劇場へ(「劇場へ行こう」を口ずさみつつ)。

 階段の上から、慌てふためいた様子で西村が現れます。胸ポケットに入れていたはずの財布が無いらしい。先ほど、皆におごると言った際、階段の中途で、琴音さんから突き飛ばされるという一幕があったのですが、その時に無くした様子。お稲荷さんの陰で、無事、財布を見つけます。と、同じ場所で、さくらのお守りを見つけます。何かの縁と、胸ポケットにしまい込みます。喉が渇いた西村。稲荷寿司屋の前でラムネの空瓶を見つけ、ラムネを飲むことに。店主がいないので、取り敢えず勝手に持ち出し、椅子に腰掛け、ラムネを飲みます。
 紅蘭がアイリスを探して階段の上を通り過ぎ……。

 そしてここから第一幕のハイライトです!
 舞台右手より、アイリスがお守りを探しつつ登場。美味しそうにラムネを飲んでいる西村を見つけ、その場に立ち止まり、微妙な上目遣いでその様子を見つめます。それだけで、私の呼吸は止まり、胸の鼓動は高鳴ってしまうほど、可愛かったです。西村の背後にそっと忍び寄り、向かって右から、「美味しそうだね」と囁き掛けます。振り返る武田。それをかわすように、アイリスは悪戯っぽく、今度は左側から素早く覗き込みます。今回の歌謡ショウのアイリスの台詞の中で、私はこれが一番、大好きです。何ともいえない声のトーン、普通の声と囁き、呟きとの中間、茶目っ気たっぷりな言い方、とってもアイリスらしくて、そこはかとなく久美さんらしさを感じてしまう一言なのです。
 さて、西村はアイリスの姿に驚き、立ち上がります。「君は帝国歌劇団・花組のアイリスちゃん!?」に、アイリスは「うん!」と元気良く可愛らしく頷きます。「西村のおじちゃん!」と満面の笑顔。私の心臓はここで止まりました(笑)。
 飲む?とラムネを差し出してくる西村に、アイリスは嬉しそうに「うん!」と両手を出します。しかしそれは慌てていたため、飲み掛けのもの。手の平を広げてアイリスを制止し、新しいのを持ってくる西村。アイリスは背中からジャンポールを下ろし、ちょこんと二人で腰を下ろします。「良かったね、ジャンポール」手渡されたラムネを子供らしく両手で抱え、長々と口に当てるアイリス。この間、会場全体は物凄く静まり返っていました。隣に腰を下ろして見守る西村と同じ気持ち。私だけでなく、皆そんな感じだったのかなと思います。「美味しい?」「うん!」再びラムネを口に当て、そしてうっとりと、アイリスはため息をつきます。いいシーン。そんな言葉がしっくりと来る、ほのぼのとした、美しいシーンであったと思います。ラムネを耳もとに持ってきて、カラコロと鳴らします。静かに、涼やかに、「ラムネの歌」の前奏が始まります……。

 歌ったのは二番。照明が物凄くゆっくりと落ちていく中、アイリスの歌声が情感たっぷりに客席全体を包みます。この曲はCDで聴いても、心響き、時に鼻をつんとさせ、涙腺を揺さぶるほど。素晴らしい歌唱を久美さんは披露されていますが、生で聴くと、歌声の膨らみ、広がりといったものまで強く感じました。足を揺らしたりする仕草とも相まって、歌う姿は、可愛くもあり、美しくもありました。
 最後のフレーズに入る前の間奏は長くとられていて、その間、西村と、ほのぼのとした、幸せなやり取りがありました。「ラムネってレモネードの偽物なんだって」と西村に教えてあげたり、どうしてここに?という問いに、「お休みだから」と答えて、お芝居とお芝居の間、次の台本ができるまでに短いお休みがあるということ(この部分、ふと現実の久美さんと重なったことがありました。久美さんもお休み無いんだろうな、って……)、お休みの過ごし方を話したりします。映画見に行ったり、美味しいもの食べに行ったり……。(この辺の台詞はちょっと自信ありません。この後の台詞が余りに可愛すぎて、何もかも飛んじゃいそうになるんです。→)「お兄ちゃんとデートしたりするんだ!」と両足、持ち上げて、恥ずかしそうにラムネごと両手を頬に持ってきて。もう、この世で一番、可愛い瞬間でした。
 デート!?とおうむ返しに聞き返す西村。と、薔薇組との約束を思い出し、慌てて立ち上がり、階段を駆け登っていきます。因みに千秋楽では、「薔薇組さんとデート?」とアイリスが言い、西村がこけるというネタがありました。ちゃんとお礼を言って、アイリスは再び椅子に座ります。最後のフレーズを気持ちたっぷりに歌い上げ、「しゅわーっ」と、幸せげに口に出します。CDより声に出していた感じで、より可愛かったです。

 舞台左手よりさくらがしょんぼりと登場します。意気消沈した様子の彼女に駆け寄り、アイリスは優しく励まします。さくらの背中を押して、稲荷寿司屋の椅子に座らせ、さくらは休んでいてと、ラムネを手渡します。何か言いたげなさくらを残し、アイリスは「さくらはラムネ飲んでてねー!」と、舞台左手へと走り去っていきます。

 一人しょげ帰るさくら……。舞台の照明が段々と落ちていき、蝉の声もいつしか消えます。青白い照明の下、子供たちの提灯行列の声が通り過ぎると、階段の上に、死んださくらのお父さん、野沢那智さん演じる真宮寺一馬が現れます。一馬はさくらの肩に手を置き、皆の休日を台無しにしてしまったことや、大切なお守りを無くしてしまったことについて、優しく力強く励まします。やがて階段の上へと一馬は、提灯行列の歌と共に消えていきます。「お父様……?」とさくらは、気配が消えた父に向かって呼び掛けます。もう一度、呼び掛け、そして最後は涙混じりの大声で叫びます。

 舞台が明るくなり、蝉の声も戻ってきます。そこにカンナが駆け付けます。今そこに父が、と戸惑うさくらに、大げさに驚いてみせるカンナ。さくらは形見のことはもういいと言い出します。形見は胸の中にある。そう父の言葉を繰り返すさくら。カンナはさくらと同じように、子供の時に亡くした武道家の父の話をします。形見は胸の中にあるという話に理解してみせます。が、形見があるうちは大事にしなければいけないと、さくらを説得します。
 話は今度の舞台のことになります。マリアさん主演の「海神別荘」と言うさくらに、カンナは「海神別荘」というそのタイトルを繰り返すます。「かいじんでべそ〜!?」とちょっと無理やり(?)なぼけをかまし、今年で三回目となるカンナの妄想が始まります。今回、餌食となったのは(笑)主演のマリア。派手な照明と派手な前奏が駆け巡る中、稲荷寿司屋の店の奥から、タキシード姿にでべそがぼこんと出た出で立ちのマリアが飛び出してきます。例によって全身タイツの琴音と菊之丞を引き連れ、激しいノリの歌を披露します。変なのだけれど、やはり歌は上手で、どことなく部分部分、格好良い、そんな感じでした。歌が終わり、派手にこけながら店の奥へと引っ込んでいくマリア。
 大爆笑するカンナとさくら。何であたいの妄想なのに笑っているんだと突っ込まれるさくらでした。笑顔が戻るさくら。再び、二人はお守りを探し始めます。カンナがお守りと勘違いし、犬のうんちを拾ってしまうという一幕もありました。手をさくらの服になすり付け、えんがちょをして逃げるカンナ。追うさくら。階段を登って右手へと走っていきます。

 舞台左より、大神を囲むようにしてアイリス、紅蘭、織姫、レニが現れます。西村の手を通じて大神の元に来たさくらのお守り。そのことについて話しています。アイリスはお守りを手に取り、可愛らしくスキップしながら舞台中央へ。「お兄ちゃんらしいね」と、大神に手渡します。
 と、「稲荷寿司返せ〜!」と、白狐の霊の声が響き渡ります。この日替わりゲストがラサール石井さんと島崎俊郎さんの時は、舞台が暗くなり、効果音と激しい煙と共に、白狐の霊が神社の屋根の上に姿を現すのですが、清水よし子さんの時は、まず皆、一斉にアイリスの方を向きます。足を閉じて真っ直ぐ立っているアイリス。違う違うという風に手を振ります。そして再び白狐の甲高い声。またまたアイリスの方を向く一同。今度は若干、強く手を振ります。
 その後、妙なしなを作りながら、清水よし子さんの白狐の霊が姿を見せます。「なーんだ。さっきの声はあのおばさんのだー!」とアイリス。おばさん!?と腹を立てる白狐。アイリスは「変な声ー!」と白狐を指差します。怒った白狐はそっくりそのまま真似します。「変な声ー!」。するとアイリスは「おまえがだー!」と可愛く言い返します。「おまえがだー!」。「真似するなー!」とアイリス。「真似するなー!」。再び「真似するなー!」とアイリス。子供みたいに、このやり取りを楽しんでいるような、そんな笑顔でアイリスは白狐の霊と言い合っています。「真似するなー!」。一呼吸、置いてアイリスは、「アイリスちゃんは可愛い!」と言います。そのままつられる格好で真似する白狐の霊です。「アイリスちゃんは可愛い!」。更にアイリス、止めの一言です。「アイリスちゃんは小っちゃくて可愛い!」(笑)。真似してアイリスを誉めてしまう白狐。「アイリスちゃんは小っちゃくて可愛い!」。そこでやっと白狐は我に帰り、ぶつぶつとぼやきます。そして仕返しとばかりに、白狐の方からこう言います。「白狐ちゃんは可愛い!」。が、し〜ん。いきなり無表情になって突っ立っているアイリスが、異様に面白かったです。

 怒った白狐は、さらったすみれの身体を乗っ取ります。白煙と共に屋根の上から白狐の姿は消え、神社の扉が開かれ、そこから狐の耳を付けたすみれが現れます。慄く一同。「なーんだ、すみれじゃない」とアイリスは歩み寄ろうとしますが、レニに引き留められます。白狐の霊がすみれの身体を乗っ取っていることを見抜きます。
 すみれは不敵な笑みを浮かべ、アイリスたちに白日夢を見せ、術中にはめます。コーン!と叫び、「夢の中の夢」が始まります。皆、棒立ちになり、すみれの操るがままになります。歌が進むにつれ、皆、狐じみた雰囲気に変わっていきます。ここでのなまめかしさも感じる振り付けは、他の曲と違い、音楽に合わせて、という感じではないので、非常に難しかったことと思います。それにしても今年、久美さんは誰よりも沢山、踊っていました。かつて、誰よりも踊りが苦手だとおっしゃっていた久美さんがです。誰よりも努力してきたからこそ、昨年に続いて今年もこんなにダンスシーンが割り当てられた(安心して任せられた)のだと思います。私のひいき目を除いたって、このシーンの久美さんの動きは頭一つ分、輝いていたように思います。

 歌が終わると、マリアが駆け付けます。すみれに操られた一同は舞台右手の方に集まって、座り込んだ格好でぐったりした状態です。銃を鳴らすマリア。皆、「コーン!」と狐の仕草をして、一声、上げます。そして二度目の銃声で、くたん、と倒れます。すみれの方に放たれた銃声で彼女は神社の中へと引っ込みます。  本体を見せる白狐の霊。呼び寄せられたけん族がマリアに襲い掛かります。最初は果敢に相対していたマリアでしたが、動きの素早い狐たちに銃も奪われ、翻弄され、遂には身体の自由まで奪われてしまいます。白狐に操られたアイリスたちが、マリアに群がります。がんじがらめにするように、まとわりつかれ、動けなくなるマリア。
 アイリスは足元に屈み込み、じゃれるように両手をマリアの膝になすり付けています。何と言うか、とっても羨ましい仕草です。自分も一遍、こんなことされてみたいです。この、白狐に操られている一連のシーンのアイリスは、非常に可愛いです。狐の真似して両手をくねらせているのが、堪らなく可愛いです。こういう状態でも可愛らしさを見せ付けてくれる久美さんは本当に凄いです。

 続いてカンナが駆け付けます。稲荷寿司を食べたのは自分だからと謝り、皆に手を出さないでくれと頼りますが、白狐の霊は聞く耳、持たず。けん族たち一匹一匹がアイリスたちそれぞれに付き、操られるような感じで、一同はカンナへと迫っていきます。妖しげな動きでカンナに襲い掛かります。そしてカンナもまた身体の自由を奪われ、瞬く間に窮地に陥ります。
 お鎮まり下さい!と凛とした声が響き、階段の上からさくらが下りてきます。アイリスたちは警戒するように声にならない声で吠え、舞台右手へと集まります。皆、屈んだ姿勢です。さくらは霊剣・荒鷹を片手に、白狐の霊に対して敬意を込めつつも厳しい口調で、元の世界へと帰るよう迫ります。しかし怒り狂った白狐の霊は聞き入れず、段々と邪悪な力を放ち出します。5匹のけん族たちが組体操みたいな感じで一つになります。
 破邪剣征・桜花放神。さくらの気合いを込めた一刀がけん族たちもろとも白狐の霊を打ち倒します。
 謝るカンナ。白狐に操られていた皆を起こします。そして無事、お守りが大神の手からさくらの元へと帰ります。

 そこへ武田が松吉を引きずって、舞台右より現れます。真面目に働かず、借金を返そうとしない松吉を殴ろうとする武田。カンナが止めに入るも、聞き入れない武田。松吉の父には大いに世話になったからこそ、貸した金。さくらは、武田さんの拳はお父さんの拳なんでしょと、殴りなさいと促しますが……。
 武田は自分には殴れないと、舞台中央へ。一歩、引いた調子の軽い口調で、自分の身の上話を始めます。そしてさくらが松吉を叱り付けます。松吉は心を入れ替え、真面目に働き、旨い稲荷寿司を作り、借金を返すことを誓います。
 さくらのお守りも戻り、大団円。
 この一連のシーンでは、アイリスは舞台左で、紅蘭と大神の間に立っていました。武田が大声を上げた時は身をすくませたり、殴ろうと手を振り上げた時は紅蘭に顔を埋めたり、まだ子供なアイリスには武田の話を理解できない部分もあって、たまにきょとんとしていたり、松吉が心を入れ替えるところでゆっくりと笑顔に変わったりと、多感なアイリスは様々に反応していました。この辺の細やかな演技も、素晴らしいものであったと思います。
 最後は「勝利のポーズ、決めっ!」と、花組みんなでポーズを決めます。サクラ大戦のゲームの中で、戦闘シーンが終わると必ずやる決め事のようなものです。アイリスはカンナの隣、真ん中辺りで膝をついた姿勢で腕を広げていました。
 そしてここで幕が下りてきます。

 舞台右手より、花組全員が銀橋へと出てきます。終わる休日を名残り惜しみつつ、花火を見上げます。「何だか……まだ遊び足りないね」と、寂しさと可愛さが入り混じった感じで呟くアイリス。「口ずさむ歌」が始まります。
 さくらが歌っている間、アイリスは真ん中より左寄りで、紅蘭、レニと一緒にしゃがみ込んで、何やら紅蘭に遊びを教えてもらっている様子です。他の皆もそれぞれ思い思いのことをしていて、歌いながらさくらが通り過ぎると、お互いに笑い掛けるといった感じで、穏やかに温かには流れていきます。やがて皆、誘われるようにして立ち上がり、振りに入っていきます。ゆったりとした可愛らしい動きで、アイリスは綺麗な笑顔を見せてくれます。
 三回目のサビで花組一同、中央に集まり、そして「さあみんな一緒に」で、客席も一緒に歌うよう、笑顔で誘い掛けてきます。会場全体が一つになった時でした。皆で歌いました。銀橋の上を往く花組と一緒に歌う……至福の時でした。

 そんな幸せな時間の後に追い打ちを掛けるように愉しい時間をくれたのは、東中軒雲国斎こと国本武春さんの浪曲でした。一幕のお話をまとめ、二幕の劇中劇へと繋げる語りを三味線のメロディに乗せて歌っているのですが、ただ歌うのでなく、かつての浪曲には付き物だったという掛け声をレクチャーしながらの披露でした。教え方、と言うか喋り口が抜群に面白くて、毎日、来ていても全く飽きが来ませんでした。しかも日毎にやらなければいけない掛け声も増えていき、国本さんの弾き方もどんどんノリノリになっていきました。
 それが終わると、男衆が登場です。ダンディ団にバラ組の二人、大神に親方、金田先生、皆、浴衣姿。歌謡ショウが5周年を迎えたことについて御礼をおっしゃり、そして花組祝い太鼓へ……。


ショウタイム・花組祝い太鼓

 新春歌謡ショウでも大好評だった和太鼓です。前回は参加できなかった織姫が中心、高台の上におられました。四つ並んだ太鼓のうち、アイリスは左側の二つの太鼓を叩いていました。ソロのところでは、その二つの太鼓の間に立ち、両腕を縦横に振り回し、迫力ある音を紡ぎ出していました。痺れるほどの格好良さ、鳥肌立つほどの素晴らしさ! 歌謡ショウが千秋楽に向かうにつれていつも寂しく思ったのは、この太鼓がもう聞けなくなるということでした。そのくらい、価値のあるものでした。アイリスという子供の役柄からなのか、それとも久美さんの癖なのか、一番、大きく脚でリズムを取っていたのも印象的です。おかげで、格好良い、かつ可愛いとも思える雰囲気でした。
 上気して胸を弾ませている久美さんの笑顔……。第一部は、そうして幕を閉じました。




 
 
・・・秘密エピソード・・・

 実はある友人と私は、この夏の歌謡ショウで再び和太鼓があることを知っていました。それは以前、久美さんに、握手してもらっていいですか、と言った時のこと。
 久美さんは、何故かためらいました。そしておっしゃいました(正確ではありませんが、大体このようなことをおっしゃいました)。
 「今、手ががさがさなの。それでもいい? ほら、アレのお稽古で豆が凄くて……」
 直ぐに思い付いたのは、太鼓のことでした。一旦は、ああ、と思った私。でも新春歌謡ショウはとっくに終わっていました、その時は。
 ??な私たちに、久美さんはしまった、というお顔になりました。久美さんの悪戯っぽい笑顔と私たちは約束しました、これは内緒、と。
 それは私が初めて久美さんにお会いした時のことでした……。握手を求めている立場の私に、お気を遣って下さったことに感動し、何より感動したのは、そのお手の華奢さです。こんな細い手から、あんな大迫力の音が出せるなんて……と。そして本当に少しかさ付いていた箇所もありました……。
 だから初日で、花組祝い太鼓という言葉を聞いた瞬間、この時のことが一遍に甦ってきて、涙が出そうになりました。
 久美さんはいつも笑顔でいます。でもその裏には、いつもご自分の程度に悩みながらも格闘している、物凄い努力があります。この話は単なる自慢みたいなものにしかなりませんが、このことを知って頂けたら幸いです。





 
  〜第二部〜


 第二部はさくらとマリアが主演の劇中劇でした。泉鏡花さん原作の古典劇を、花組なりにアレンジしたもの。
 物語の舞台は海の底の異世界。海の世継ぎ、公子(マリア)の別荘、青玉殿。数々の海の品々と引き替えに、恋人として迎え入れた地上の美女(さくら)。
 くらげと化した海で死んだ人の魂や、海の底を荒らし回る赤鮫や黒鰐の存在、そして剣を携える公子の威容に、最初こそ恐れ慄いていた美女でしたが、公子が持つ莫大な富、威光に目が眩み、次第に心を奪われていきます。
 陸にいる父は娘を小舟に乗せて流し、彼女は死んだということになっているのですが、美酒を飲み、上機嫌になった美女は自分が生きていることを陸の人々に知らせたい、自分が手にした富を見せたい(見せつけたい)と言い出します。人に見られなければ生きている甲斐が無い。彼女の浅ましさに腹を立てる公子。美女は、生きている姿だけでも父に、と取りすがります。
 陸の人間の目には、貴方の姿は白い大蛇に映る。一生、知らせぬとしていたつもりのことを、公子は美女に告げます。無論、美女は信じず、半狂乱になって公子をなじります。しかし地上に戻った彼女が見たものは、白蛇と化した自分から逃げ惑う人々(このシーンは国本武春さんの浪曲で語られていました)。
 青玉殿に戻り、泣き濡れる彼女……。美女は、これが公子の魔法だと尚も言い張ります。激昴した公子は、配下である黒潮騎士団に彼女を殺せと命じます。が、美女は、貴方自身の手で自分を殺しなさいと声を張り上げます。剣を抜く公子。
 テーマ曲「全ては海へ」が入り、美女は自分に手を掛けようとする公子に愛を感じ、公子は剣を待つ荘厳な彼女の姿に心打たれ、愛を感じようとします。そして二人の他に何も無い世界、マリンスノーが降る中、公子と美女は結ばれ……幕。
 というのが、大まかな粗筋です。


 久美さん演じるアイリスは、かえでさん、織姫と一緒に、公子に仕える腰元の役でした。物語の筋に関わる役ではありませんが、ストーリーを縦とするなら、横である世界観をしっかりと形作っていました。
 浮き世離れした雰囲気、何不自由無く暮らしているような甘い空気、地上の人間とは決定的に違う価値観などが、台詞の言い方や仕草によって表されていたのが、見事でした。それでいて、アイリス独特の可愛らしさは残っていて、久美さんが腰元を演じているのではなく、アイリスが腰元を演じている、そういう劇中劇の基本は生きていたように思います。
 アイリスの腰元は一番の年下で、ミーハー(?)なところもある、ちょっとドジな娘、というキャラクターでした。かえでさんのがリーダー格で、織姫の腰元とは仲の良い姉妹、そんな印象もありました。


 二幕は基本的に主演二人のお話で、アイリス始め腰元たちや、
公子の妻
(すみれ。個人的には一番の力演、好演でした)
黒潮騎士団の団長(レニ)、
僧頭(親方)
博士(紅蘭)
赤鮫(カンナ)
 などは、ばっちり脇を固めていた、といった具合でしたので、アイリスの見せ場のみをかいつまんで書いてみます。歌謡ショウから2ヶ月も経とうとしているため、少々記憶が曖昧ですが、その辺はどうぞご容赦下さい。


 二幕は国本武春さんの浪曲でお話の舞台などが説明され、一番奥の薄い幕の向こうで、アイリスたちは静止しているという状態でした。そして「海の宴 花の宴」の前奏と共に幕が上がり、煌やか、且つ紺碧の海をどこかしら匂わせる着物をまとった、腰元たちが舞台全体に広がります。
 笑顔を纏ったアイリスの踊りは優雅で可愛くて、右手に持った大きな扇子を開いたり閉じたり、閉じた扇子で左手を叩いたり、舞台を縦横に動き回りながらも、上体と腰を駆使したダンスでした。首を傾げた格好や、後ろ姿を見せるところが、何とも言えず可愛かったです。
 そしてアイリス一番の見せ場はここ。間奏中……CDにおいては一瞬、間が空くところです。青玉殿のセットが後背に広がるその中央、ドラが置いてあるのですが、ばちを持ってそのドラを思い切り叩いてしまうのです!(CDから察するに、普通に叩けばいいところを、加減を間違えてしまったというところでしょうか) その音に皆、耳を塞ぎ、ふらふらになります。アイリスも耳を塞いでいます。かえでさんの腰元が扇子をぱんぱんと叩きながら睨んできて、アイリスは、すすすすす、(こんな感じなのです)と前方に歩み出てきます。そして、顔を下に向けて、両手ではっしと持った扇子を、ごめんなさいっ、って感じで上に掲げます。こんな表現は余り使いたくないのですが、超可愛かったです。私個人のこだわりを捨てて、もう使わざるを得ないほど、と言うと、その可愛さぶりも伝わってくれるでしょうか。
 曲が再開した後はアイリスのソロ部分に入りますが、笑顔がそれまで以上に可愛かったのも印象的でした。

 アイリスがダンサーとして踊る曲はもう一つありました。「この書物は」です。前述の曲と比べると幾分、活発な振りです。両手を合わせて前に突き出し、身体を上下させるのが、何とも言えず可愛くて良かったです。CDにはありませんが、〜スペイン遠征の折りに〜の直後、「バキューン!」と叫んで慌てて口を抑えるというところも、アイリスファンにはポイント高かったです。

 ここで一つ、何より力説したいのは、久美さんが誰よりも沢山、踊っていたということです。
 単純に、歌が入っている場面(隠しの三曲、最後のゲキテイまで含め)で登場した回数を比べてみると……
     さくら  5
     すみれ  7
     マリア  7
     アイリス 9
     紅蘭   7
     カンナ  5
     織姫   7
     レニ   6
     かえで  7
 となります(間違っていたら指摘して下さると有り難いです)。
 大変なのは勿論、どなたでも一緒です。でもその中でも、今年、久美さんは頭一つ飛び抜けていたんです、少なくとも歌と踊りに関しては。
 ダンサーさん一同よりも沢山、久美さんは踊りをこなしていたんです。数年前、歌えない、踊れない、なんて半ば大げさにおっしゃっていた久美さんですが、この五周年公演で、誰よりも踊れる人になっていました。
 久美さんは、努力の人だと私は思っています。
 目の前にあるお仕事に、常に真摯に懸命に頑張ってきたから、無理やり世界を広げようとはせずに、きっと一つ一つを確実にクリアしてきたから、久美さんはこの厳しい役者の世界で消えることなく、常に第一線で活躍してこれたのだと思います。今年になって、ナレーションの仕事も来ました。着実に、久美さんは階段を登っています。
 舞台が好きという気持ちと、自分の弱点・欠けているところを素直に認められる姿勢(更には公の場でさえそれを言えること)、それを克服するための努力は決して怠らない姿勢、そしてその結果から現れる、どこまでも魅力的な演技が、久美さんの役者としてのポジションを固く形作っていきたんです。だから、決して崩れません。
 五年前と比べ、格段の進歩を遂げた、誰よりも踊れる人、それが言い過ぎであるなら、「誰よりも踊らなくてはならない役どころを任された人」、久美さんに拍手を贈って下さい。
 この歌謡ショウで得たことは、これから先、FOXさんの舞台で活かされることでしょう。

 さて、アイリスの出番は、美女が青玉殿に迎え入れられるまでとなります。大体、公子は中央の玉座に腰掛けているのですが、その間、アイリス始め腰元たちは周辺に正座し、袖の端を掴み、片方の腕は伸ばし、もう片方の手は胸の辺りで、首をちょっと傾けた姿勢でかしづいていました。公子の言葉に頷いたり、喜んだりと、反応を返すシーンが大半でした。
 アイリスのシーンを正確に記述する自信が今の記憶では自信が無いので、アイリスの台詞を幾つか簡単に紹介します。
★おなごには目もくれる暇も無いという僧頭の言葉に対し、
「(織姫と一緒に)うそうそ」
 かえでさんの台詞に合わせて、一度、「冗談冗談」になっていた回がありました。
★公子の言葉に対して、
「お早くお着きあそばせばようございますのにねえ」
「(手を叩いて)まあー勇ましい!」
 などなど。
★博士を公子の前に招き入れる際、
「こちらです」
★僧頭の、雑魚で小魚を釣るという人間の話に対し、
 織姫が釣り人、アイリスが釣られる小魚となって、その様を僧頭の前でふざけてやってみせるという場面もありました。

 劇中劇「海神別荘」は、古めかしい台詞が飛び交い、一度では理解できない箇所もありましたが、言葉の響きが非常に美しく、そこに酔いしれることができました。小さい子にはやはり難し過ぎたでしょうが、セットや衣装、照明、音楽も美しいものであったし、ただ観聴きするだけでも価値ある舞台でした。
 ご覧になることができなかった方も、赤鮫=カンナと見るだけで何となくご想像が付くかと思いますが、お笑い担当でした。去年のヨゼフの流れを継承しているかな?と感じる役柄です。因みに、カンナ率いる赤鮫軍団が青玉殿に攻め込むというシーンがあり、アイリス始め腰元たちが逃げ走る場面があるのですが、千秋楽、その赤鮫軍団に殆ど素っ裸で金田先生が加わっていました(笑)。そしてその赤鮫に、アイリスが舞台奥でしつこく追い掛け回される、なんていう一幕もありました(笑)。
 とまあ、笑いもあり、誰でも楽しめるという点は例年通りでした。
 美女と公子の物語に関して言うと、終盤、若干、二人の関係が飛躍し過ぎる印象もありました。が、歌謡ショウという形式を最大限に活用した、いいやり方だったと思います。静ひつな空気の中、古めかしい台詞で、二人の人となり、関係が丁寧に描かれ、そして荘厳な大曲「すべては海へ」で一気にテーマを語り、昇華させる。難しいテーマであり、現実にはまず無い愛の形だけに、台詞のやり取りだけではなかなか納得いくように描くことはできないのではないかと思います。加えて感動させるとなれば、尚更のことです。この辺は賛否両論ですが、私個人的には、ベストな描き方であったと思います。

 フィナーレは、大迫力のダンサーさんたち勢揃いのラインダンスに始まり、「花組レビュウ」です。オープニングとは違い、花組それぞれの私服で登場でした。間奏部分は引き伸ばされていて、花組以外のキャストが一組ずつ現れ、一礼。その後、銀橋に花組が手を振りながら現れます。CDには無かった追加パートを歌っていました。そしてサビと共に舞台中央へと戻っていき、ラストへ。
 最後は勿論、「ゲキテイ」。アイリス私設ファンクラブ『ぷてぃあんじゅ』を始め、アイリスファンが叫ぶアイリスの名前も、他の花組メンバーに負けず劣らず会場内に響き渡っていました。またこれはそのファンクラブからのみですが、サビ直前に入るアイリスコールも、とっても目立っていました(と客観的に書いている私もその一人です)。


 そして千秋楽……。盛り上がりは過去最高のものでした。ある有志の方々が中心となって、客席から「花咲く乙女」を歌う、という企画もあり、非常に感動的でありました。
 余りの興奮と感動で、何度カーテンコールがあったか、私は分かりません。花組のメンバーそれぞれの最後の一言も、殆ど覚えていません。ただ覚えているのは、久美さんが涙ぐみ、手で何度か拭い、隣にいた岡本さんが手を握ってあげたことだけです……。
 私はと言えば、それまで何とか我慢して、「花咲く乙女」を声を詰まらせながらも歌っていたりしたのですが、それで一遍に泣いてしまいました。全てが終わった後は、まともに立ち上がれない状態でした。今こうしてキーボードを叩きながら思い返してみても、こみ上げてくるものがあります……。
 歌謡ショウという形式は今年で一旦終わり、来年からはスーパー歌謡ショウとなって続くそうです。またその前に、新春歌謡ショウが来年1月2日から行われることも、正式に決まりました。お身体にだけは気を付けてほしいと、切に思います。  本当に、凄い夏でした。
 花組始めキャストの方々、広井王子さん始めスタッフの方々、そして久美さんに、心からお礼を言いたい気持ちです。

 ありがとうございましたっ!!!







<<<FOX舞台女優として……>>>


 FOX舞台女優として、久美さんは凄いです。久美さんの外見には似合わない表現を敢えて使わせて頂くならば……、久美さんは、凄まじいです。
 こうして何百行かに渡って、久美さん演じるアイリスについて書いてきましたが、劇団21世紀FOXの舞台でお芝居される久美さんの魅力は、これを更に上回ります。
 一般的な演劇とサクラ大戦の舞台は、比べるものではない、タイプの違うものであり、普通の演劇をご覧になっている方からすれば、アイリスの役はコスプレと称されるものです。が、舞台の上で久美さんがやることは、同じお芝居です。舞台の上にいる間は紛れも無くアイリスという少女で、これまで述べてきたように心を射抜くほどの可愛らしさで観る者を惹き付け、頭のてっぺんから爪先まで子供の様を演じ切ります。
 サクラ大戦によって、久美さんの知名度は更に上がりました。アイリスの演技は魅力的です。が、FOXさんの舞台における久美さんの魅力はこれを更に上回るんです。
 その理由には大きく二つあります。

1.久美さんの沢山の役を観ることができる。
 久美さんは19年余りもの間、FOXさんの舞台女優、看板女優として(声優業も沢山やってきましたが)、数々の役をこなしてきました。
 ヤクザの姐さんや元ストリッパー、SMクラブでバイトしながら女優を目指す女の子、プロのスリ、小説家、少女漫画家、至って普通のおじいちゃんっ子などなど。
 単純に数えて(役作りはその都度されると思うので、再演も別の役と数えて)40人近く、久美さんは演じてきました。  アイリスの印象が強い方もいらっしゃるでしょう。でもアイリスは西原さんの中の、ほんの一部です。久美さんには沢山の引き出しがあり、長いキャリアの中で沢山の引き出しを手に入れてきました。そしてまた一つ、「F・f・ーエフー」という公演で妊婦という引き出しが現れようとしています。
 FOXさんで久美さんが演じる役には、アイリスの面影はかけらもありません。これは絶対、胸を張って言い切ることができます。サクラ大戦歌謡ショウを一番最初の年からずっと観てきている自分がそう言うのですから、間違いありません。
 何の役であれ、久美さんが舞台上に出てきた瞬間は、まず目を奪われます。存在感や美しさは言わずもがな、何より、その役の性格や言動などが、物言わずとも、表情や立ち方などからオーラとなって先行して表れてくるんです。この辺は、他者の追随を許さない、後輩さんたちも容易には追い付けない、凄まじい迫力であると思います。
 物語に出てくる登場人物の全人生のうちの一瞬を、身体を用いて表現する。久美さんは、それをしっかりとやっています。リアルに人間を演じています。時には、その女性のその後を想像させてしまう、彼女はこの先どうなっていくんだろうと、思わせるほどです。
 だから一つ一つの役に、前の役の名残りなんて微塵も感じませんし、そしてそれはアイリスも同じです。「アリス・イン・ワンダーランド」という、久美さん主演の代表作があります。さらわれた友達を助けるため、鏡の向こうに乗り込んだアリスという少女の冒険物語です。性格は全く違うものの、歳の頃は同じ。ですが、そこにアイリスの雰囲気は一切ありません。全然、アイリスと違います。勇敢なアリスという少女の演技に引き込まれ、物語に夢中にさせられ、ラストまで持っていかれます。私がこのお芝居をビデオで観たのは、歌謡ショウのチケットを取るのもままならなくなり始めた頃ですが、アイリスぽいのかな、という先入観がありました。ところが実際に観終わった後は、そんな先入観があったことすら忘れていました。同じ年頃の少女でさえ、こうなのです。声色一つ一つを取って、例えば、ここがアイリスに似ている、なんてことは、無理やりにであれば言えるかもしれません。が、それは上辺の、程度の低い話です。人間が出せる声には限りがありますし、それに声色は役者さんにとっては、肌の色、目の色、といったものと同じです。久美さんの演技は、そういった次元を遥かに越えて、一人一人の女性の気持ち、感情をリアルに 観ている人に伝えてきます。
 FOXさんのお芝居では、FOX舞台女優として久美さんが演じる、そんな沢山の魅力溢れる女性を観ることができるんです。

2.大人の女性が非常に魅力的。
 数多くの役をFOXさんの舞台で演じてきた久美さんですが、中でも、大人の女性役は物凄く魅力的です。これは別のコーナーなどでも書いてきましたが、色っぽい女性、恋をしている気持ちを表現するに掛けては、FOX女性陣の中で随一です。
 とは言え、久美さんが演じる女性は全て、後で思い返すに、はまり役です。笑顔や怒りに引きつる顔や神妙な顔や……無限に広がる豊かな表情、感情が後を引いてついてきているような歩き方や動き、うんざりとした様子や有頂天になって喜んでいる様、苛立っている様子など……鼓膜より早く心に飛び込んでくる台詞の喋り方、そしてそれらが一体となって現出する、強烈な存在感ある演技、どれを取っても魅力的で、冒頭に書いたように、その素晴らしさは凄まじいです。
 そんな久美さんの演技を、FOXさんの舞台では、歌謡ショウのような大がかりなセットや派手な音響が無い分、ストレートに感じ、堪能することができます。

 以上のように、久美さんの真骨頂はFOX舞台女優としてのお芝居にあります。それが言い過ぎであったとしても、久美さんの役者としての素晴らしさが一番多く強く発揮されるのは、FOXさんの舞台の上です。
 久美さんも、サクラ大戦のアイリスは色々なことにチャレンジさせてくれるキャラクターとおっしゃっていますが、正に久美さんにとって、歌謡ショウは挑戦の場なのだろうと思います。歌、踊り、和太鼓、大きな舞台での演技など、多くのものを身に付けてこられたと思います。それがFOXさんの舞台で、直接的にしろ間接的にしろ、活かされていけば、また素晴らしいことでしょう。
 いつまでも、久美さんにはFOX舞台女優として頑張っていってほしいと思います。声のお仕事をし、サクラの舞台をこなし、それぞれで得たことを互いにフィードバックさせつつ、劇団21世紀FOXの看板女優として沢山の役を演じていってほしいと思います。


最後に……
 先日、歌謡ショウで久美さんと長いこと共演してきた富沢美智恵さんが、サクラの世界から引退することが、インターネット上で発表になりました(新春歌謡ショウが「神埼すみれ引退公演」となるそうです)。結婚されたことが一つの切っ掛けになったようです。
 哀しく、とても残念なことです。そして同時に、胸のうちにつらつらと浮かんでは消える不安があります。久美さんのことです。久美さんは既にご結婚されていますが、お子さんはいらっしゃいません。ですから、「F・f・ーエフー」で妊婦役を演じることが、私自身の中で妙に富沢さんと重なるものがあります。不安になることがあります。久美さんにお子さんができたら、お芝居やお仕事をやめてしまうのかな……という心配です。一ファンの滑稽な思いであるのだけれど、真剣に考えてしまいます……。
 全ては久美さんの気持ち次第ですから、どうあっても応援するべきです。でも本音を言うと、いつまでも舞台に立っていてほしいと思っています。仮にお子さんができたとしても、それによりお休みを取ったとしても……、いつまでもお仕事を続けていってほしいと思っています。
 〜お仕事は青二、芝居は21世紀FOXで〜これからもそのスタンスで頑張っていくつもり〜と久美さんはおっしゃっていますし、また別のインタビューでは、〜これからも、芝居だけとか声優だけ、っていうのにはこだわらず活動の幅を広げていきたい〜ともおっしゃっています。不安はありますが、今は、お仕事を続けていこうとしている久美さんの言葉を信じて応援していくつもりです。
 今とこれからの久美さんが幸せでありますように……
 そう祈りながら、このレポートを締め括ります。

 

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