久美さんinサクラ大戦
レポート【サクラ大戦スーパー歌謡ショウ「新編 八犬伝」】
 
 
サクラ大戦スーパー歌謡ショウ
「新編 八犬伝」
★★★★久美さん的レポート★★★★
〜一幕 アイリス編〜


 初日、16日、19日、20日、21日(貸切)、23日(昼)、23日(夜)、24日(昼)、24日(夜)、千秋楽の内容を元に構成した、久美さん演じるアイリスのレポートです。
 乱文ではありますが、夏のアイリスの思い出です。宙吊りにも果敢に挑戦した、パワフル久美さんの思い出です。




レポートに入る前に……★
 今回、アイリスの夏服も「スーパー」に、パワーアップしました。
 いつもの夏服に光沢が入って綺麗になっていました。以前の、ゲームのアイリスに忠実だった夏服とは変わり、舞台向けな感じと言うのでしょうか。金色が混じり、見た目に華やかになっていました。でも違和感は全く無しです。靴とリボンもキラキラしたものに変わっていました。
 スカート丈は気持ち短くなっていて、下は、飛ぶことを考えてのことでしょう、「アリス〜」のかぼちゃパンツに変わっていました。衣装的にも、より子供らしくなったアイリスです。


 オープニングは『輝く、銀座ストリート』でした。暗闇の中、イントロが流れ、ダンディの歌声がゆっくりと伸びていきます……。
 鳥肌立つ瞬間です。格好良過ぎです。だから歌謡ショウはやめられない、という感じです☆
 中央に突き出した正方形の張り出し舞台(この両脇が升席でした)、白いスポットライトに照らされながら、奈落から花組七人がせり上がってくるのです!
 横一列ではなく前から観るとV字形に並んでいて、アイリスは右側の升席から観ると、丁度真正面という位置でした。
 アップテンポに変わると、花組は後ろへと、通常の舞台へと駆けていき、帝都の人たちと笑顔で挨拶し、そして踊り出します。大人数で横に広がり、大迫力のダンスを繰り広げます。
 アイリスは上手から二番目、織姫の隣で、愉しそうに、例えるなら、美味しいお菓子みたいな笑顔で踊っていました。軽やかにして、決めるところは力強く。数回、身体を回転させる下りでは、スカートが舞い上がって中が見えてしまいましたが、今年からかぼちゃパンツに変わったので、とっても安心で、むしろ見えたことで、子供らしい可愛さが増していました☆
 1番が終わり、間奏に入ると、花組メンバーは袖へとはけていきます。アイリスは上手へとはけていきます。


 一幕はおおよそ60分間で、帝都花組の日常が舞台です。
 すみれがいなくなってしまったことで、何だかチームワークが今一つな花組……。
 次の演目は「八犬伝」なのに、「シンデレラ」や「紅蜥蜴」を演りたがる織姫。
 皆が落ち込まないようにと、発明に励む紅蘭。
 七人しかいないのに何故、今度の公演で「八犬伝」をやるのか、疑心暗鬼なカンナ。
 荒れるカンナと喧嘩してしまうアイリス。
 皆を冷静に、でも心配そうに見つめているレニ。
 花組がばらばらになりそうで悩むマリア。
 すみれの代わりにセンターに立つことを恐れているさくら。
 でも、そこは花組なのでした☆
 それぞれに考えながら、出演者を一般の人々から募る公開オーディションを通し、自然と一つになり、いつもの花組に戻っていくのでした。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
 アイリスの登場シーンのみ、抜粋してお届けします。
 劇中のアイリスの台詞については、「」で括っているものについては完璧です。括っていないものについては、大体そんな感じだったと思って下さい。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


その1.
 場所は大帝国劇場のロビー。
 突然レニが絵画の顔の部分から顔を覗かせ、さくらが柱時計の中から出てきたことに、激しく不審がるマリア。茶化していたカンナが、二度あることは三度……と、植え込みのそばに近寄ると、そこでアイリスの登場です。
「じゃーん!」
 植え込み(舞台に向かって左半分)の中の土と花が突然、持ち上がり、アイリスが現れます。いつ頃から久美さんは入っていたのでしょうか?
 向日葵のような笑顔が、もうとっても可愛かったのでした☆
 驚く一同。カンナなどは腰を抜かしています。
「アイリス、知ってるも〜ん」
 と、植え込みの中から出てきます。ふわっとスカートが舞い上がって、可愛らしく床に降り立つところ、持ち上げた植え込みを戻そうと背中を向けて、またスカートが舞い上がってしまうところが、幸せを感じる瞬間でした☆
 アイリスは、嬉しそうに説明します。
「これはねえ……、これは、紅蘭の発明なの!」
 とてとてと前に出てきて、
「名ぁ付けて」
 と、ポーズを取り(右肘を曲げ親指と人差し指を立て、脚は開いて)得意げに言うアイリス。可愛い、且つ面白くて、微笑ましいポイントでした☆
「ちゃっちゃららっちゃっちゃー」
 紅蘭が発明品の名前を言う時に掛かるあのSEを、アイリスが口で言います。可愛過ぎです☆
「空間移動装置、どこでもくん1号〜!」
 腕を振り上げ、跳ね上がるアイリス。
 すみれがいなくなって皆が落ち込まないようにって、紅蘭が作ったの、と、これが紅蘭の発明であることを、マリアたちに説明します。
 小走りでソファーまで行き、右足だけソファーに乗せ、左足は下ろした状態で座ります。ぽすっとソファーが揺れ、そしてアイリスも揺れる感じが、また可愛かったです☆
 マリアが読んでいた雑誌を広げ、ジャンポールにも見せるように抱き上げます。機嫌良さそうな笑顔が、とっても可愛らしかったです☆
 紅蘭の発明を止めにカンナが地下(張り出し舞台から奈落へ)と降りていき、さくらがそれを追います。マリアが、そうね、私たち、すみれがやめてから少し変よね、と呟き、マリアの歌「仲間たちよ』が始まります。
 その呟きに、アイリスは神妙そうな面持ちで、そちらを見ます。
 歌の途中途中で、マリアとアイリスのやり取りが入ります。
 『そしてここで出会った仲間たちよ……』と歌った後、ねえ、アイリス……、とマリアが呼び掛けます。
「んー?」(「う」と「ん」の間のような発音)
 と、ちょっと戸惑うように応じるアイリスです。
 八犬伝の話って私たち花組に似てるの……、とマリア。
「花組に……?」
 と、足が下り、ちゃんと座った格好になります。
 『友情は簡単じゃない……』と歌うと、マリアはアイリスの横(向かって右側)に座ります。するとアイリスは、マリアに向かって自分のことを話し始めます。ジャンポールは膝の上でしっかりと抱いています。
「アイリスはね、普通と違うでしょ。霊力があるでしょ」
 だからフランスではいつも仲間外れで、さみしかった。パパもママもアイリスのこと恐がっていて、お友達はジャンポールたちだけ。
 正面を向き、アイリスはそう続けます。ほんのちょっぴりだけ寂しそうに……。
「でもね」
 と、マリアの方を向きます。
 日本に行けば、同じ霊力を持った仲間たちに会えるって聞いて、アイリス、すっごく嬉しかった。
 ここでのアイリスはとても幸せそうで、仲間がいることへの心強さが感じられました。そのせいか、アイリスが自分の身の上を話す下りの久美さんの、寂しさの含ませ方は絶妙だったと思います。
「マリアだって、そうなんでしょっ」
 じゃれるように、ジャンポールをマリアに押し付けます。
 とっても可愛らしくて、心があったかくなる台詞回しでした。アイリスに癒されるマリアなのでした☆
 立ち上がり、歌に戻るマリア。『深い絆で結ぶ仲間たちよ……』と歌ったところで、アイリスは聞きます。
「仲良しってこと?」
 信じ合うってこと、と答えるマリア。
「ちょっと分かる」
 両足をちょっと跳ねさせて、アイリスは嬉しそうに言います。
 八犬伝、絶対成功させましょう、私たち花組が初めて出会った時のことを思い出して……、というマリアの言葉に、アイリスは笑顔で大きく頷きます。
 やがて歌は終盤に差し掛かります。『ああ仲間たちよ……』とソファーの後ろ、アイリスの後ろに回りながら歌うマリア。
 アイリスはマリアを追うように顔を動かしながら、夢見心地に、けれど決意のこもった口調で言います。
「ねえマリア……」
 ここで、完全に後ろを向き、マリアを見上げる格好になります。マリアはソファーに両手を着き、見下ろしています。
「八犬伝、やろうね……!」
 歌が終わり、アイリスは前を向きます。輝くような笑顔が眩しかったです☆
 そしてここで暗転です。


その2.
 一夜明けての、大帝国劇場のロビー。
 織姫の後をついて、中央の階段左手から下りてくるアイリス。
「おはよう〜」
(織姫の、おはようで〜す、の後、少しかぶるように)
 紅蘭の「空間移動装置どこでもくん1号」がまだ作動しているために、戦闘服姿でロビーに出てきてしまったさくらとマリア。
 驚いて注意する織姫に、アイリスは、あーっ、って感じで口を開け、大きく頷きます。ジャンポールをしっかと抱きながらそれをやるのが、また可愛いアイリスでした☆
 と、朝飯五杯食ったら……(下の話)、と下品な話をして二階より現れるカンナ。アイリスは鼻をつまみ、ねーっ、って感じで(呆れと諦めが半々)レニや織姫に笑い掛けます。そして織姫と一緒にソファーに座ります(左に織姫、右にアイリス)。
 座った後、ジャンポールで織姫にじゃれるアイリスが、もうたまらなく可愛かったです☆
 さくらとマリアが戦闘服を着ているのに驚くカンナでしたが、それが紅蘭の発明のせいだと知ると、まだ壊してなかったのか、と、地下へと走り出そうとします。
 が、さくらとレニに制止されます。きょとんとした様子で、アイリスはその様子を見守っています。いつものカンナさんらしくありませんよ、とさくらに言われ、カンナは、何だよ、あたいらしいって、と苛立った口調で聞き返します。
 そこでアイリスが、ちょっと両足をぶらつかせながら、カンナに言ってあげます。
 この台詞は回によって(大体、後半の方)、語尾がはしょられていました。 「誰にでも優しいカンナ、ってことじゃないの」
 が、
「誰にでも優しいカンナ、ってこと」
 になっていました。
 久美さんの中で試行錯誤するうち、後者に固まっていったのかもしれません。
 無邪気に、且つ優しく言ってあげる、素敵な台詞回しでした☆
 引っ込みがつかなくなったカンナは、「八犬伝」の話を持ち出します。すみれがいない花組七人で「八犬伝」を演る、そのことに誰も反対しない皆の方がおかしい。
 えーっ! とばかりに、ジャンポールを胸に抱えた状態で、アイリスが立ち上がります。この台詞は、はっきりとした声になる一歩手前です。
 わからずや! と、織姫が突っ掛かります。突然、勢い良く立ち上がったので、アイリスは一瞬びっくりしてしまいます。
 うるさい織姫にカンナが喚き、さくらが宥め、レニが絡み、やがてさくらと織姫が妙な具合になってしまいます。そしてカンナは、それを見て喜びます。
 その間、アイリスは、あっちを見てこっちを見て、という具合に首を振り向け、困った顔をしています。肩を小さく窄めているのも、おろおろしている様子を表していて、良いポイントです。
 笑うカンナに、アイリスは言い放ちます。
「も〜。カンナがいけないんだからね」
 この台詞も中盤の日程辺りから語尾が変わりました。
「も〜。カンナがいけないんだよぉ」
 何気無く言ったアイリスの一言でした。しかし、その一言が荒れるカンナを怒らせてしまいます。
 何で? と、冷たい口調でカンナ。何であたいがいけないの? と、アイリスに詰め寄っていきます。
 アイリスに対して、決してそんな口をきいたりしないカンナです。誰にでも優しいはずのカンナ……。
 驚き、怖がり、アイリスは後退ります。
「だって、最初に……」
 か細い声で、アイリスは呟きます。この辺は回によって、はっきりと聞き取れたり聞き取れなかったり、台詞の抑揚や間も変わっていたり、台詞無しで後退るだけの回もありました。
 久美さんの気持ちの入り方一つで、随分、変わってくる、一幕で最もデリケートなシーン・演技であったと思います。後退り方も回によって、大小、差がありました。ただどの回も、そんなアイリスの姿を見て胸が痛んだことだけは確かです。
 レニがアイリスを庇い、マリアが制止します。自棄になったカンナはあたいが悪いのか?と皆に当たり散らします。その間、アイリスはレニの背後で、ジャンポールを、さながらジャンポールに抱き付くように抱き締め、肩を窄めて小さくなっています。そして最後にカンナは、ソファーを思い切り蹴り付けます。
 それにショックを受けて……
 短く泣き声を出してアイリスは、ジャンポールに顔を半ば埋めるようにして、左側、舞台下手へと走り去っていってしまいます……。
 10回、観て、10回とも胸がちくんと痛んだシーンです。見事な久美さんの演技でした。
 走り去る姿から、アイリスの心の痛々しさが切ないほどに伝わってきます。久美さんが放つオーラの為せる業です。
 また、ただこれだけの瞬間で、胸を打てるのは、いかに久美さんがアイリスというキャラクターを魅力的に積み上げてきたかという証でもあります。
 アイリスの可愛らしさ、生い立ち、花組への思い、無邪気さ、元気さ、奔放さ、優しさなどを、しっかりと表現して、観ている者の心を掴んだからこそ、アイリスに没入して、アイリスの側に立って心配してしまう。カンナに責められるアイリスを心配してしまう。そしてその場を泣きながら逃げ出したアイリスに、胸を痛めてしまう。
 非常に見事な久美さんの演技です。


その3.
 一般の人々から出演者を募る、公開オーディション直前。審査員として花組が座る椅子が並べられた、劇場ロビー。椅子の上にしゃがみ、何やら台本と格闘しているカンナが一人……。
 舞台上手から、アイリスがスキップしながら(ジャンポールをしっかりと胸に抱いて)現れます。が、カンナの姿を見て、はたと足を止めます。顎を落とし、上目遣いになります。戸惑うような怖がるような、気まずそうな表情を浮かべるアイリスです。
 カンナから顔を背けるように、半ばうつむかせ、舞台下手へと走り出します。泣き出しそうにも見える、必死な感じの表情です。
 カンナの前を通り過ぎ、そしてぴたりと足を止めます。意を決したように、そこでアイリスはカンナへと振り返ります。左腕にジャンポールを抱え、右手は下ろした格好です。
 突っ張らかった声で、アイリスは言います。
「なにやってんのぉ」
 昨日のカンナはあんなだったけれども……。仲直りしたくて、頑張って声を掛けている様子が窺える、とっても素晴らしい久美さんの台詞回しです。意地らしくて、とっても可愛らしいったらありません☆
 するとカンナは、よぉしっ、できた!と台本を閉じ、椅子の上に立ち上がります。そして黙って、アイリスに向かって手招きします。
 え? という風に上体をそちらへと突き出すアイリス。
 再び手招きされ、アイリスは怖ず怖ずと、カンナの元へ。
 ん!と、カンナは台本をアイリスへと突き出します。
「えぇ?」
 と、見上げるアイリス。カンナのことを怖がって、まだ警戒している感じの疑問符です。びっくりして、台本を受け取れません。
 再び、ん! と、強い調子で、カンナは台本を差し出します。ちょっと間を置いて、アイリスは台本を受け取ると、(受け取ってから)ひったくるように自分の元へと引き寄せ、急いでカンナから少し離れます。
 しっかり、勉強しろよ、とカンナ。
「え?」
 と、アイリスは上体をちょっと突き出し、カンナを見上げます。
 するとカンナは、歌謡ショウではすっかりお馴染みになった、ポテト、じゃなかった、さてと、と言い(初日と二日目はありませんでした)、頭使ったら腹減っちまった、と食堂へ、中央の階段を登っていきます(貸切公演では何と、頭減っちまった、になっていました☆)。
 アイリスは、カンナを追い掛けようと階段の下へと走ります。
「あ、カンナっ」
 呼び止めようとするものの、カンナは行ってしまいます。ちょっと間を置き、首を右に、ちょこんと傾げるアイリス。一瞬だけれど、ここはすっごく可愛らしいポイントです☆
 口をちょっと尖らせ、困惑した表情で客席側へと振り返ります。そして台本を開きます。ジャンポールは左脇に抱えた状態。
 台本を見て、ページをめくり、アイリスは驚きます。目を見開かせ、口も半開きで、足も開いた格好です。
 かえでさんが舞台上手から現れます。アイリスを見つけ、雲国斎先生、見なかった? と尋ねます。と、台本を開いているアイリスを見て、偉いわね、もう台本の勉強してるの、と褒めます。
 アイリスは説明しようとして、何か言いたげな顔をかえでさんに見せます。が、うまく言葉にまとまらない様子。と、三味線の音がして、雲国斎が舞台下手から登場します。
 ここでは客席から、待ってました! の掛け声が掛かるのですが、その日のノリ次第で、雲国斎の反応は様々でした。アイリスはそれを見て、カンナと台本のことは一先ず置いておき、かえでさんと笑い合ったりして、満面の笑顔を見せていました。
 レニ、マリア、織姫が二階から下りてきて、雲国斎に挨拶します。レニの浪花節やる? という言葉に、雲国斎はまた三味線を弾き始めます。わたくしは薬用石鹸でよく洗ったのに雲国斎〜(毎回、変わっていました)などという風に、客席に向かって自己紹介しちゃいます。アイリスはそれを見て、とても愉しげに、可愛らしく笑います。
 話はオーディションのことに戻ります。第一次審査を通過したのが二十名、応募だけで三百名以上もあったという話を聞き、アイリスは身を乗り出します。
「わあ…………凄いね!」
 嬉しそうに、ちょっとうっとりした感じで、アイリスは声を上げます。
 やがて、大神が舞台上手より現れます。
「あ、おにいちゃん」
 こっちの準備はできたよ、と大神が言い、いよいよオーディションが始まります。
 かえでさんに促され、皆、席に着きます。アイリスは左から二番目に座り、右隣が織姫、左隣(左端)がマリアです。
 最初、マリアが座る椅子に、アイリスはジャンポールを置きます。そして、ジャンポールをひょいと持ち上げ、マリアが座ります。ジャンポールを返すマリアと、笑い合い、じゃれ合う数瞬もありましたが、これはカンナはどこ? というかえでさんの質問と、アイリスが椅子に座るタイミングにより、あったり無かったり(黙って受け取る)しました。が、そこは言うまでもなく、久美さんの反応、演技は自然でスムーズです。
 カンナの居場所を尋ねるかえでさんに、アイリスが答えます。
「ご飯、食べに行っちゃった」
 この台詞は、その前の、アイリスに台本を渡して食堂に行く時のカンナの台詞に影響されることもありました。
「ポテト、って言って、ご飯、食べに行っちゃった」
「頭使ったら頭減っちゃった、って、ご飯、食べに行っちゃった」(貸切公演)
 という具合です。
 必ず影響される、という訳ではなくて、その辺りは、その回の舞台上の空気、久美さんのアイリスへの気持ちの入り方、その回で積み重ねてきたアイリスの演技(いつもより弾けていたり、大人しかったり)に相応しいものを、直感的に選択していたように感じられます。
 大神が公開オーディションの挨拶を始めます。終わると、織姫がブラボー! と叫んで、アイリスと二人(だけ)、拍手します。
 大神に呼ばれ、向こうの準備はできましたと、親方が舞台上手より現れます。そして、椅子に座った花組の面々に、厳正な審査をお願いします、と頭を下げます。
 ここでもアイリスと織姫が二人、ちょこんと頭を下げます。可愛いコンビです☆
 オーディションが開始され、一番はダンディ。が、声が上ずって、とても緊張した様子。
 ここで、今回の歌謡全集のCDには無かった歌が入ります。オーディションに対する緊張感を歌った歌で、とてもゴージャスな雰囲気の歌でした。
 一般の人たちも沢山いるので、大人数で歌い踊り、とっても豪華でした。
 アイリスは最初は椅子に座っていて、身体を横に揺らし、そしてジャンポールを椅子に置いて立ち上がります。左側の升席の横へと降りてきて、張り出し舞台にちょこんと座り、踊る一般の人たちを眺めます。やがて再び舞台へと上がり、ここで、オーディションで要求する演技の種類(泣く、とか、怒る、とか)を、花組が一つずつポーズを取って言い、一般の人たちがその演技をします。
「喜ぶ!」
 人差し指を立て、右手を掲げるアイリスが、とても眩しく、可愛かったのでした☆
 そしてダンスに入ります。緊張している様子を表している、カクカクとした動きのダンスがとても印象的でした。
 曲が終わると、カンナが千葉助を連れて舞台下手より現れます。こっちだ、こっちだ、と、舞台中央へと連れていきます。
「カンナぁ!」(最後の「ぁ」はとても小さく)
 叫ぶアイリス。瞬間、回りの視線が集中するものの、アイリスは構わず後ろを振り返り、台本を手に取ります。カンナは、オーディションに参加したいという紙芝居屋の千葉助のことを話しています。カンナの話が終わるまでアイリスは待っていますが、居ても立ってもいられない、今にも飛び出していきそうな様子、目がウルウルして泣きそうな感じの表情です。
 そしてカンナの話が終わるや終わらないうちに、アイリスは飛び出していきます。
「カンナ〜!」
 ひしっ、とアイリスはカンナに抱き付きます。でも歌謡ショウでは、大きなアイリスと小さなカンナなのです。カンナの顔はアイリスの腕にすっぽりと包まれ、見えなくなってしまうのでした☆
「カンナカンナカンナカンナー!」
 泣きながら繰り返し叫ぶアイリスです。笑うところなのだけれど、何だか温かくて本当、良いシーンです。何だよ、と、カンナも嬉しげなのでした☆
「ごめんね…………ありがとう……!」
 どうしたの? と尋ねるかえでさんに、アイリスはぱたぱたとそちらへと走り寄り、説明します。
「あのね、カンナがね、台本に、漢字に、振り仮名ふってくれたの……」
 台本を開いて、泣きそうな声で言うアイリス。
 カンナは、アイリスと仲直りしようと、漢字の読めないアイリスのために台本に振り仮名を振っていたのですが、読み進めるうちやがて、なぜ花組が七人しかいないのに、米田支配人が「八犬伝」を演るのか理解したのでした。
 カンナにソファーを蹴られ、泣き声を上げて逃げ出したアイリスの演技がとても胸を痛ませるものだっただけに、ここはとっても幸せを感じてしまうシーンです。
 役の感情をしっかり客席に伝えられる久美さんの演技が光ります。
 みなまで言うな、みなまで言うな、と、カンナは照れ隠しに芝居掛かった物言いをします。いいってことよ、で、千葉助が、親分、と絡み、雲国斎が後ろで三味線を鳴らします。オチが付いたところで、アイリスは皆と口を揃えて言います。
「カンナ〜」
 カンナが皆に謝り、始まるオーディション。
 アイリスはジャンポールに台本を抱かせたりして、こういう小技も可愛らしい、久美さんのアイリスです。さすが久美さんです☆
 最初にオーディションするのはダンディ。でも全然、声が上擦っていつものダンディらしくありません。思わず織姫が、ダンディさん、歌の方が上手でーす、と言う始末(その後、横のレニに口を押さえられたり、途中の日程からは、嘘でーす、と付け加えていました)。
 アイリスもぱっと、織姫を振り向きます。
 カンナが励ますと、雲国斎が三味線を鳴らしながら前に出てきてスポットライトが当たり、舞台は暗転。


「希望の星よ」
     そして……
 全てが「八犬伝」に向かって上手く動き出し……、一幕の締めを飾るのが久美さんのアイリスです。一幕最大の見せ場であり、久美さんの役者人生にとって大切なページとなっただろう数分間です。

 場所は大帝国劇場のテラス……。下手に一つ平らな屋根があり、中央にテラス、上手に緩やかなスロープの屋根が一つ。
 イントロが流れ、上手の屋根に、アイリスがゆっくりと現れます。背中には、たった1本のロープ。靴とリボンはそのままですが、このシーンでは、黄色い夏服が以前のバージョンになっていました。ロープを掛ける都合上、何かしら背中に施しているせいでしょう。
 1番を歌い終えると、衝撃的な瞬間が訪れます。
 アイリスの両の足が宙を離れ、ふわりと飛び上がり、テラスの屋根の上へと着地します。
 心臓が跳ね上がり、全身に鳥肌が立ちました。
 そこから先は……何と表現したらいいのか。
 両手を広げ、脚を軽く曲げ、歌いながら満天の星空を飛び回る姿は、この世のものとは思えぬほど美しかったです。
 あそこにいる久美さんは、今までの自分が知っている久美さんではない。そんな気持ちにさえなりました。
 両肘を軽く曲げ、はばたくように手首を可愛らしくスナップさせた瞬間、垂直上昇する姿は、本当に感動的でした。余りにも綺麗、そして……温かかったのです。
 綺麗だけでなく、歌から感じられるあの温かさが、飛ぶアイリスの姿に物凄くあったのです。
 だから、観ていて目が潤んだ。
 そう思います……。
 この人に出会えて良かった、この人を好きになって良かった、この人のファンになれて良かった、今、思い返すと、そんな、誇らしい気持ちになります。
 死ぬほど努力したんだろうな、って思います。たったロープ1本で、あそこまで美しい姿で飛び続けるには、相当の力が必要です。
 腹筋、背筋を鍛えたと聞きます。アブトロニックで出来る限り身体も絞りました。
 今までの歌謡ショウで培ってきた身のこなし、怠けてしまうこともあるけれど、日頃のエアロビやダンスのレッスン、遡ればバスケをやっていたことがある、元から良い方な運動神経。これらが土台にあるとは言え、あそこまで流麗な動きを見せるには、相当な努力があったことと思います。
 「俺に任せろ」と言ってくれたフライング指導の方に、いっぱい怒られたりもしたのでしょうか……。
 そう考えずにはいられないほど、飛びながら歌うアイリスの姿は素晴らしいものでした。
 飛びながら歌う「希望の星」。
 地に足が着いた状態と全く変わらぬ歌声と声量、そしてあったかい気持ちでいっぱいにさせてくれる歌唱でした。
 これがどれだけ凄いことかは、ちょっと想像してみれば分かること。腹から声を出すには、地に足が着いた状態でないと、ままならないし、意識して見れば分かりますが、飛んでいる間は相当なスピードが出ています。
 にも関わらず、アイリスの「希望の星」は聞き苦しい点、何一つ無く、テラスに出てきた花組メンバーのハミングと美しく重なっていたのでした。
 そして、本番の間も、久美さんには進歩がありました。
 間奏の間、下手の屋根の上で、大きく前のめりになって眼下を見下ろし、腕を広げて、また元の体勢に戻るところ。ここは、最も目に見えて上達したポイントであったと思います。初日に比べ、とてもスムーズに、とても美しくなりました。
 希望の、星。
 この時のアイリスを表すのに、妖精や女神、なんて言葉では、はっきり言って足りません。
『みんなの心がひとつになって
強い絆で結ばれますように
みんながひとつの家族になって
優しい愛で包まれますように』
 絆に愛。これは、目には見えないことです。でも、もしも、これを目に見えるようにしたなら、どんなにかそれは温かく光り輝いていることでしょう。飛ぶアイリスの姿は、正にそれのようだったと、私は思います。
 ラスト、アイリスは回転しながら、星空へと舞い上がります。テラスの真上へと上がり、カンナがアイリスの足を捕まえようとします。
 アイリスと喧嘩したカンナがです。
 そして幕……。

 この後は15分間の休憩ですが、第1回目のスーパー歌謡ショウということで、大サービスとしてアイリスが再び飛んでくれました。親方の紹介で幕が上がり、舞台下手からアイリスが登場。
 ぺこり、と頭を下げ、何と、客席に向かって飛んできてくれたのでした!
 舞台中央からI列J列の辺りまで、アイリスはジャンポールのポシェットから金粉(1センチ四方の金色のテープ)を撒きながら飛びました。輝くような笑顔で、時折、手も振ったりしました。足をばたばたさせたりするところも、可愛らしいポイントでした☆
 SS席中央に座ると、アイリスが飛んでくる時、風を感じることができました。言わば、久美さんの風☆。アイリスが振り撒く金粉を浴びることに加え、それもまた、とても幸せなことでした。
 飛んでいる時に出ているスピードを思うと、「希望の星よ」以上に、慣れるまでは怖かったのではないかと思います。真下に大勢のお客さんがいる訳ですし、(これは公演中であれば冗談でも口にしてはならないことですが、無事に終わった今なら許されるのではないかと思います……)失敗したら、自分が怪我するだけじゃすまない。
 また、久美さんにとって何より怖かったのは、高さ云々ではなく失敗することだったといいます。
 勿論、100%失敗の無いようやるのが、フライング操作をするcccの方たちの絶対の務めな訳で、久美さんも100%失敗が無いよう、時間が無い中、練習を重ねてきた。それでも今にして思うと、これは随分、怖いシーンだったのではないかと思います。
 アイリスは、三回、客席に向かって飛んで、最後は足を開いた状態でスカートを押さえながら張り出し舞台へと戻っていきます。何だか胸がきゅんとなる姿でした☆
 千秋楽では最後、ポシェットの中身をぶち撒けるように振り、いつもより大量に金粉を撒いていました。
 西村と武田(飛んでいるアイリスを見つけ、驚いてやって来る)に、抱き止められ、西村がロープを外します。
 すごいねアイリス、空を飛べるんだ、と武田に言われ、
「うん!」
 と頷くアイリスでした。
 その後、武田がアイリスの頭の上を、手で空を切り、種も仕掛けも無い、なんて言ったり、落ちた金粉=幸せの粉☆を一生懸命、拾っていたりしました。
 西村と武田が去ると、アイリスは舞台奥へと行き、
「ありがとうございました〜」
 と、頭を下げました。
 これから休憩時間だというのに、立ち上がれなくなるほどの衝撃と感動を、久美さんのアイリスはいっぱいいっぱい与えてくれたのでした。



 
 〜二幕 角太郎編〜



犬村角太郎の衣装について★
 衣装は、「サクラ大戦」関連サイトなどで見られる「八犬伝」姿の花組集合写真、また、「スーパー歌謡全集」のジャケットで見られるものと同じですが、黄色いマフラーはしていませんでした。
 ぱっと見、リボンのように見える、バンダナ(はちまき)が可愛らしいポイントです。
 (人伝てのお話ですが)因みにお稽古中は、アイリス私設ファンクラブ『ぷてぃあんじゅ』の黄色い浴衣を着ていたこともあったそうです。パンフレットに和服姿で稽古している方たちの写真がありますが、衣装の雰囲気を出すため、恐らく二幕のお稽古ででしょう。


 二幕はおおよそ1時間45分。前半は、里見に起こった悲劇、八犬士誕生の経緯などが描かれ、お待ちかねの八犬士(七犬士)たちの活躍は中盤からでした。

 側室、玉梓にそそのかされ、里見義美を攻める安西影連の軍。そんな中、里見の忠臣、金碗大輔が玉梓を捕えてきます。所詮、女であるから……、という理由で一旦は、許そう、と口にした義美。しかし金碗大輔の必死の説得により、義美は斬れと命令します。激高する玉梓。
 人の上に立つ者が言の葉を違えるとは……、と、玉梓は深い憎しみに捉われ、怨霊と化します。
 一方、影連との戦、戦局は旗色悪いものでしたが、義美の愛犬、八房が影連の首を取ったことで、影連の軍は総崩れを起こし、里見は一気に優勢に立ちます。
 しかし戯れ言ではあったものの、敵将・安西影連の首を上げれば、伏姫をくれてやると、犬畜生の八房と約束をしていた義美。それを知った伏姫は嘆きます。言の葉を違えることは愛を失くすこと。それこそは里見の恥。伏姫は八房を連れ、里見の城を去ります。
 直後、玉梓の怨霊が里見に襲い掛かります。里見の忠臣、山下定包に乗り移り、義美を呪い殺し、里見を乗っ取ってしまいます。
 やがて、富山さんの洞窟で八房と暮らしていた伏姫も、定包の兵によって八房共々、撃ち殺されてしまいます。そこに駆け付けた金碗大輔も、自らの無力を、愛する者を守って死ぬことすらできなかった自らを嘆き、自害します。
「悲しや伏姫の愛、
 想う男に届いて消えた。
 この世で叶わぬ愛とても、
 せめてあの世で契り合う」
 流れ出る伏姫と金碗大輔の血が混じり合い、中から八つの輝く玉が生まれます。言わば、伏姫と大輔の愛の結晶です。これぞ世に名高い八犬士誕生。
 それから二十四年の歳月が流れ……お話は、花組、七犬士たちの活躍に移ります。関東ご支配役にまでなった悪の権化、山下定包打倒の、仇討ち話です。

 言ってみればプロローグなのだけれど、人形浄瑠璃や浪曲などと相俟って非常に迫力あるものに作り込まれていて、とても熱中することができました。多少、長くはあるけれど、この部分がしっかりしているから、山下定包打倒という仇討ちに、のめりこむことができたように思います。
 特に、八犬士の持つ玉が、伏姫と金碗大輔の愛の結晶であるということ……。即ちそれは、それぞれ本当の親はいるにしても、二人の血を八犬士が受け継いでいるということ。そこに、熱くなるものがあります。燃えてくるものがあります。
 久美さんの角太郎も、真っ直ぐで清らかな、あの二人の血を持っていると思うと、とっても熱い気持ちになるのです。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
 犬村角太郎の登場シーンのみ、抜粋してお届けします。
 劇中の角太郎の台詞については、「」で括っているものについては完璧です。括っていないものについては、大体そんな感じだったと思って下さい。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


その1.
 犬村角太郎の最初の登場シーンは、顔見せの場面です。
 とある屋敷の屋根の上、偽物の村雨丸を将軍家に献上したとして、犬塚信乃(織姫)を追う犬飼現八(紅蘭)。刃を交えた瞬間、二人は、お互いが玉を持つ者、兄弟だと知ります。すると、張り出し舞台にせり上がってきた修験者・犬山道節(マリア)が、玉について説明します。
 その後です。太鼓がどろどろどろどろと打ち鳴らされ、屋敷の扉から、角太郎含め他の犬士たちが飛び出してきます。右手には玉を掲げています。角太郎は舞台下手、一番左に立ちます。
 そして首をゆっくりと回し、ポーズを決めます。
 ここは、角太郎が、アイリスが、と言うより、男性を演じている女性の美しさがとても感じられました。首を回すところは、うっとりするほど色っぽかったです☆
 道節が再び口を開くと、暗転して幕です。


その2.
 所は桜が満開の隅田川の土手……。折しも、隅田川桜祭りの真っ最中。上手側には団子屋さん。
 祭だ、祭だ、お、団子屋だ、と、舞台上手から浮かれて現れる犬田小文吾(カンナ)。おーい、壮介、角太郎、と二人を呼びます。
 犬川壮介(レニ)の後をついて、同じく上手から、角太郎が登場します。
 この辺りに兄弟がいると感じる壮助に、
「分かるよ……!」
 駆け寄り、真剣な表情で、角太郎は壮介に向かって言います。
 角太郎の第一声です☆ 久美さんが演じている、のではなく、アイリスが演じている、そういう設定。アイリスが原形にあるので、多分に可愛らしさが強く残っているのですが、何とも言えず、心をくすぐるトーンでした。凛々しいけれど可愛い。可愛いけれど凛々しい。そんな感じなのです。
 小文吾は、おいらにゃ分かんねえな、と、今は兄弟よりも団子、という感じで、団子屋へ。
「も〜……!」
 団子屋へと入る小文吾に向かって、角太郎は客席に背を向け、呆れて呻きます。どちらかと言うと、アイリス寄りの声です。アイリスが、カンナに呆れて呻くのに、ちょっと近いかもしれません。ここは可愛らしいです☆
 と、ここで、隅田川界隈を仕切っているヤクザ屋さん、関東松五郎(琴音さん)が出てきて、この隅田川桜祭りに来ている皆に挨拶をします。
 角太郎は団子屋の前で壮介と並んで(角太郎が左)、松五郎を興味深げに見守っています。そして、かの有名な旅芸人、あさけのが来てくれている、と聞くと、顔を輝かせ、壮助と顔を見合わせ、喜びます。
 アイリスというキャラクターが元にあるから、七犬士の中でも最年少なのでしょう、青年にはまだ届かない、少年という感じな角太郎です。可愛さを漂わせつつも、少年らしさが前面に出ている、久美さんの演技です。
 笑顔は確かに可愛いです。が、アイリスのそれとは違う、少年の艶やかさを含んだ笑顔が絶妙でした。何度でも堪能したくなる、久美さんの演技の妙です☆
 松五郎の紹介であさけのが登場し、一曲、歌ってくれることになります。角太郎と壮助は、松五郎の子分(武田)から、手で持つ小さな太鼓とばちを渡されます。最初はきょとんとしていたけれど、何事か説明されると(声は聞こえません)、直ぐに顔を輝かせて笑顔に。
 あさけのの、『隅田川』が始まります。ここでの角太郎と壮助は盛り上げ役です。太鼓を手に持って叩きながら、舞台を練り歩きます。
 上述したように、アイリスとは違う少年らしさを含んだ笑顔が素敵でした。また、二人ともリズミカルなのですが、真面目な壮介は比較的、落ち着いた調子で楽しんでいるのに対し、角太郎は太鼓を叩きながら片足を交互に上げたりと、小犬みたいにぽんぽん走っていくような、そんな、はしゃいでいる様子がとっても可愛かったです。観ていて心踊る、そんな楽しさです。
 角太郎は、前半、舞台下手側の前面で、升席のお客さんたちを煽るように手持ち太鼓を叩き、さくらの後ろでレニとばちを打ち合わせると、下手へと移動します。ここで、あさけのが太鼓を叩き始め、舞台奥でも松五郎の子分たちが和太鼓を叩き始めます。
 角太郎は立ち止まり、目を真ん丸にして感嘆します。驚きに笑みが混じった表情です。張り出し舞台で太鼓を叩くあさけのと、舞台奥の大太鼓と普通の太鼓を叩く子分たちとを交互に見て、顔を輝かせます。
 こういった何気無い部分で見せる表情も素敵でした☆ アイリスとはしっかり一線を画していて、観がいがある。中性的というには不粋な、不思議な魅力を持った、角太郎の表情です。
 太鼓に興味を持った角太郎は、自分も叩きたいと思ったのでしょう、舞台上手からぐるりと回り込んで、奥の大太鼓の方へと向かいます。と、団子屋の前には小文吾の姿。向かう途中で角太郎は、あーんして、団子を1個、食べさせてもらいます。
 もう、久美さんめ☆って感じです。可愛過ぎです☆ 両の足を揃えているところも大きなポイント。
 今にして思うと、凄いです。お客さんによっては、ともすれば見つからない、見つけてくれない数瞬です。そんなところでも、全身全てを使って、可愛らしさ、角太郎のあどけなさを表現し、抜群の存在感を見せているんです。舞台人の貫禄です☆
 口をまだ少しもぐもぐさせながら、角太郎は、大太鼓を叩いている武田のそばへと行きます。太鼓を叩かせてくれるよう頼み(台詞は無し、そんな雰囲気で)、交替します。ばちを持ち、叩き方を教えてもらうと、早速、叩き始めます。短いながらも、久美さんにとってはもう四度目の太鼓です。堂に入ったものです。
 やがて手持ち太鼓に戻り、曲は終盤へ。角太郎たちは愉しげに叩き、煽りながら上手側に。ラストは太鼓を少し掲げ、ばらばらと打ち鳴らします。武田に太鼓を返し、そして松五郎が、もう一度、盛大な拍手を、と言うと、皆と一緒に嬉しそうに手を叩きます。
 と、壮介がはたと気付きます。こんなところで浮かれている場合ではない、と。しかし、小文吾は団子に夢中。先に行ってくれと促します。
「もう。しょうがないなー……」(「もう」は小さめ)
 客席に背を向け、角太郎は呻きます。
 何とも言えない響きの声です。少年らしい初々しさが、アイリスの声で伝わってきて、不思議と胸がきゅんとなります。同じアイリスファンの仲間がおっしゃっていた言葉で、「ショタコン」(どういう言葉の略かは分かりませんが、女性が少年などを好む趣味のこと)というのがありましたが、それも一理あるかもしれません。何にしても不思議な魅力です。
 行くぞ、角太郎、小文吾はそこで待っていろ、と壮介が言うと、角太郎は追って走り出します。名残惜しそうに祭を眺めながら、横向きに走っていきます。目を輝かせながらあさけのを見て、くるりと回りながら、下手へと走り去っていきます。
 この辺りが、八犬士を探すという責務を感じていながらも、まだ幼い、というところが感じられて、とても好感が持てます。
★★★★★★★★
 祭を中止にさせようと役人が介入してきて、誰もいなくなった隅田川の土手。カンナが一人いるところに、角太郎と壮介が戻ってきます。
「いないねー……」
 低めのトーンで、ぐったりしたように、角太郎は後ろの壮介に首を振り向けつつ(顔を向けず、後ろに向かって、という感じ)言います。
 こうしたトーンを聞き、表情を観ていると、アイリスが、ではなく、久美さんが角太郎を演じると、非常に凛々しい、心打つ美少年が出来そうで、期待してしまいます☆ 久美さんの可能性の大きさを感じます。
 小文吾が、こっちは玉を持つ者を二人も見つけたぜ、と得意げに言ってきます。
「本当ー!?」
 目を大きくして、角太郎は小文吾のもとへと駆け寄ります。
「で、どこにいるの?」
 興奮した調子で尋ねる角太郎です(左から壮介、小文吾、角太郎、という立ち位置)。
 小文吾は、見つけた二人の犬士のことを話します。山下定包に恨みを持っていると思しき、あさけのこと犬坂毛野のこと、それから妙な術を掛けてきた修験者のこと。この修験者のことを小文吾が嫌がり(変てこなポーズをさせられたので☆)、壮介が宥めます。
 その間、角太郎は、膨れっ面気味、口を尖らせ気味に、呆れた様子、困った様子で見ています。そんな表情で、角太郎は言います。
「努力したのぉ〜……」
 ここはアイリス寄りで、文句無しに可愛かったです☆
 失敬な! と小文吾は言い返します。
「うんー……」(「う」は「ふ」と「ん」の中間)
 角太郎はうつむいて、溜め息混じりに呻きます。
 と、不意に小文吾は壮介に向かって、金はあるか、腹が減った、と言います。
 すると角太郎は右腕を真っ直ぐ伸ばし、人差し指を突き出して小文吾を指差し、非難します。
「さっきお団子食べてたじゃなーい」
 もう可愛いったらありません☆ アイリス寄りです。但し少年らしさはちゃんと漂っていました。
 壮介が路銀がもう残り少ないことを告げると、角太郎は、右手を胸に当て、こう提案します。
「それならちょっと遠いけれど、我が家にお泊まり下さい」
 礼儀正しく、柔らかな声音と物腰です。
 二人がそれに応じると、角太郎は優しげな笑顔で続けます。
「では日が暮れないうちに急ぎましょう」
 この台詞は、「では」が「じゃあ」になっていた回もあり、後半の日程では後者に固まっていました。
 そして元気良く案内します。
「こっちです!」
 舞台上手を右手で指し、身体を翻し、先頭に立ってそちらへと歩き出します。
 角太郎の育ちの良さをしっかりと見せている、一連の演技です。初々しく、あどけない、可愛らしい(アイリス寄り)面も見せつつ、締めるべきところは締めています。親近感を持たせつつ、角太郎のきっちりした面を魅力的に感じさせる、久美さんのバランス感覚に優れた演技です。歌謡ショウという場で岡本麻弥さんにも感じますが、バランス感覚が無いと、うまくはいきません。
 さて、このシーンの最後はお楽しみでした。
 舞台上手に歩いていこうとする角太郎を小文吾が呼び止めます。
「んー」(「う」と「ん」の中間)
 と、応じる角太郎。小文吾が、ご飯、いっぱい食べさせてね、と言ってきます。
 すると袖に消える際に角太郎は振り返り、可愛らしい声音でこう答えるのでした。
「いーっぱい食べてね」
 ちょっと間を置いて、
「ソースケっ」
 そしてこれは、貸切公演と千秋楽では、変わっていました。
 貸切公演では、振り返り、そして足を大きく開いて立ち止まり、あまつさえ間を置いて、しかもやたら嬉しそうな顔をして(やたら嬉しそうな久美さんの笑顔が印象的でした☆)、
「…………」
 無言で前に向き直り、行ってしまったのでした。もう本当に、絶妙な間でした☆
 千秋楽では、少し上手へと歩き去るタイミングが遅くなっていて、角太郎は振り返ると周囲をきょろきょろと見回し、
「空耳かー」
 と、低いトーンで言って、袖へと消えていったのでした。こちらは絶妙な声のトーンと真顔でした☆


その3.
 場所は変わって、赤岩道場。舞台奥に立派な屋敷、手前が庭という造りです。
 右側升席の手前の通路を通って、角太郎たちが現れます。角太郎、壮介、小文吾の順です。くたびれてしまったのか小文吾が、まだー、と急かしてきます。
「もうちょっと」
 と、可愛らしい声で答える角太郎。声のハスキーな久美さんが少年役(アイリスが原形にあるとは言え)を演じると、こんなにも心をくすぐる台詞回しが出てくるのか、その良い例です。
 しかし余程くたびれたのか、小文吾は唸ります。終盤の日程では、客席に向かってまで唸っていました☆
「もうちょっと」
 念を押すように、ちょっぴり語気を強めて角太郎は繰り返します。因みに回によっては、
「もうちょっとだってばあ」
 という台詞だったこともありました。
 さてこのシーンは、貸切公演と千秋楽では違うバージョンでした。
 出の時が角太郎からの台詞になります。
「こっちだよー」
 そして不意に立ち止まります。
「あ、こんなところに枝が」
 右手で枝を持ち上げる仕草をして、その下をくぐっちゃうのでした☆
「気を付けてね、壮介」
 と、後ろに向かって言う角太郎。壮介は素直に枝をくぐる仕草をします。が、小文吾は無視してずんずん進んでしまうのでした☆(更に千秋楽では、犬の糞を踏んでしまうネタが仕込まれていました。角太郎の台詞は無く、席の位置から表情を見ることはできませんでしたが、恐らく苦笑いしたり、二人に合わせたリラクションで表情を作っていたことでしょう)
 壮介が屋敷を見て、角太郎、ここがそうか、と尋ねます。
「そうだよ」
 舞台に上がり、二人に向かって角太郎は、ちょっぴり得意げに言います。
「ここが我が家。赤岩道場さ」
 ふと小文吾が疑問を持ちます。角太郎の名前は犬村角太郎。どうして赤岩道場なのか。
 すると角太郎は躊躇することなく、さらりと言ってのけます。飽くまで表情は明るく、声音は柔らか。但しほんの僅か、表情にもトーンにも陰りが出ます。見つめれば見える陰り。そんな按配です。
「私は捨て子だったんだ。それを父上が拾って育てて下さったんだ」
 そして、ほんのり温かさが漂う台詞回しです。育ての父を尊敬し、心から愛している様子が伝わってきます。久美さんの演技力に感じ入ってしまう数瞬です。
「父の名前は赤岩一角」
 名前の部分を誇らしげに、はっきりと言います。
「昔、里見家の剣術指南役だったんだよ」
 嬉しそうな笑顔を二人に向かって突き出して、角太郎は得意そうにそう言います。
 庭を横切り、座敷の左側に歩いていくと、角太郎は二人に振り返りながら、
「私の名前は守り袋の中に書かれていたんだって」
 と、付け足します。
 ここも見事な久美さんの台詞回しです。さらりと流しながら、寂しさと切なさが含まれています。本当の親が自分のためにただ一つしてくれたこと。本当の親に対する切ない恋しさや、でも今は幸せであることからの諦めや、そんな角太郎の微妙な気持ちを感じさせてくれます。角太郎という少年の内面にしっかり深みを与えている、久美さんの役作りでしょうか。心に残る台詞です。
 座敷の奥に向かって角太郎は声を上げます。
「父上ー! 父上ー!」
 すると、座敷の奥から角太郎の父、赤岩一角が現れます。
「角太郎、ただいま戻りました」
 気を付けをして、礼儀正しく角太郎は言います。
「父上、お友達を連れてきた。泊まって頂いてもよろしいですよね?」
 この辺の台詞回しは、聞いていてとても気持ちの良いものでした。角太郎の育ちの良さが表れた、声音の柔らかさが素敵です。アイリスを原形に久美さんが演じるこの少年には、何とも言えない色気があります。それが最も顕著に表れているのが、ここかもしれません。
 快く許してくれる赤岩一角。角太郎は、ぱっと顔を輝かせて、
  「上がって上がって」
 と、両手で二人を座敷へと誘います。
 赤岩一角に風呂の準備をするよう言われると、
「はい、父上」
 角太郎は頷きながら、はきはきと返事します。
「ゆっくりしていってね」
 二人に笑顔を向け、角太郎は舞台下手へと走り去ります。
 最後の最後まで胸をきゅんとさせる、初々しい香りを持った角太郎の台詞です☆
★★★★★★★★
 壮介と小文吾を思うがままに翻弄する猫爺。しかし、どこからともなく飛んできた小刀がそれを打ち破ります。何奴!? と猫爺は叫びます。
「犬村角太郎、見参!」
 舞台下手から、颯爽と角太郎が登場します☆
 右腕を曲げて真っ直ぐ立て、左腕を曲げ、その先を右肘に付けた格好です。右手は、人差し指と中指を立てています。
「我が屋敷内での悪事、許さんぞ、化け猫ぉっ!」
 格好良過ぎです☆ 惚れ惚れするような流麗な勢いで捲し立て、「化け猫ぉっ!」でばしっと叩き付ける様が、最高に素敵でした。声のトーンも凛々しく、久美さんの魅力の真骨頂が活きている台詞でもあります。
 と、猫爺の姿を見て、角太郎は驚きます。
「ああっ」
 呼気混じりに声を上げ、
「それは父上の着物……!?」
 台詞全体に疑問符が行き渡っているような感じです。
 猫爺は、角太郎の父、赤岩一角を食ったことをおどろおどろしく告げます。
「なにぃ!?」
 上体を突き出し、角太郎は叫びます。
 何を言っているんだという、混乱している気持ちと、父が殺されたという、受け入れがたいショックとが入り混じった声です。目は大きく見開かれ、今にも震え出しそうな表情です。
 猫爺は、おまえも食ってやると、配下の化け猫たちを差し向けます。しかし、
「はっ!」
 と、角太郎は左手で化け猫たちを制します。
 普通なら衝撃に打ちのめされてしまうところですが、ここで崩れないのが八犬士の一人たる所以であり、元・里見家の剣術指南役、赤岩一角に育てられたことによる芯の強さでしょう。
 刹那、角太郎は垂直に飛び上がります。
 度肝を抜かれる、とはこのこと。まさか二幕でも飛ぶとは思っていなかったので、全身を鳥肌が、衝撃が駆け抜けました。
 角太郎は宙返りをしながら屋根の上を移動し、反対側(舞台上手)へと降り立ちます。ぐるんぐるんと、宙返りを六回、繰り返し、舞台上空を駆け抜けていったのです。
 このアクロバットを見せるために、久美さんはどれだけ背筋と腹筋を鍛えたのでしょう。更に宙返りを何度も繰り返すことで平衡感覚は失われますし、しかも空中であるから上も下も分からなくなります。
 一幕で感動していた久美さんの凄さ、更にその上を行く久美さんの凄さ。久美さんの頑張りを思うと、涙が出るほど誇らしい気持ちになります。
 すーっと舞台上手、屋敷の廊下に当たる部分に降り立つ角太郎。小文吾のやんややんやの声援、壮介の拍手を受け、(ここで、袖にいる黒子さんから脇差を受け取ります)角太郎は満面の笑顔で飛び跳ねたり、ピースサインをしてみせちゃいます。
 ここはアイリスに戻っちゃった感じでしょうか。可愛い過ぎです☆
 そして千秋楽では、更に度肝を抜くことを久美さんはしてくれました。
 何と、
「おまけ!」
 と言うや否や、垂直に飛び上がりながら、後転で宙返りを三回、決めてみせたのです!
 おまけなんてレベルではありません。前に回るより、後ろに回る方が遥かに難しいであろうことは容易に想像できること。久美さんは最後の最後に、とてつもないプレゼントを用意していたのでした。公演期間中に練習したのでしょうか。もう本当に、久美さんってばにくいです☆ 嬉しいことこの上無い、久美さんの千秋楽ネタでした。
 角太郎を褒めちぎる小文吾たちを、猫爺は威嚇し、やめさせると、事もあろうに角太郎の父、赤岩一角を愚弄し始めます。それにしてもおまえの父は弱かったにゃあ、などと言い始めます。
 配下の化け猫たちも一緒になって笑い出し、角太郎は戸惑いの表情になります。父が殺されてしまったことが、現実のものとして一気に角太郎の胸に染み渡っていきます。
 ここからは、角太郎のアクロバティックなフライングと双璧を為す、角太郎最大の見せ場です。  角太郎は必死の形相で、声に怒気を漲らせて言い返します。
「父上は弱くない! 笑うなぁ!」
 が、猫爺は尚も、駄目な父親だから笑ったのにゃ、と角太郎を嘲笑います。
「駄目じゃない!」
(「な」と「い」の間に「ぁ」が入るような感じ)
 角太郎が言い返すたび、角太郎の父に対する想い(父を敬愛する気持ち)が、観ているこちらの胸にひしひしと伝わってきます。気持ちが角太郎と同調して、感情移入していく、久美さんの素晴らしい熱演です。
「父上は立派な人だ……!」
 上体を突き出し、角太郎は叫びます。悲しみと怒りと、父を愛する気持ちで、擦り切れる一歩手前の声です。
 角太郎は視線を落とし、続けます。泣き出しそうな、けれど、怒りで辛うじて抑えている、低いトーンの声です。
「血の繋がっていない私を育てたんだ」
 父を思いながら、自分の言葉に熱中していくように、角太郎は独り続けます。呟きにも近い台詞回しです。そして段々と声に力がこもっていきます。
「我が子以上に、可愛がって下さったんだ……!」
 父を本当に愛していたことが、観ているこちらの胸いっぱいに広がっていく、悲しいシーンです。
 毎回、観るたび、自然と目が潤んでくるのは、いかに久美さんの演技が角太郎の気持ちを表現し、客席へと伝えていたか、その単純な証です。
「父上は……立派な人だああああああ!!」
 角太郎は絶叫し、廊下から外へと飛び出します。岩と草でできた庭木を飛び越え(トランポリンになっていたようです)、配下の化け猫たちを掻き分け、猫爺と対峙します。
 脇差を抜き、逆手に構え、足を開き、腰を落とした姿勢です。怒りで息を荒げながら、猫爺を睨み付けます。声になって聞こえるほど呼吸は荒く、それに合わせて上体も揺れていました。
 負けるな、って気持ちになる、角太郎の姿でした。
 憎め憎め、と猫爺は角太郎を挑発します。
 角太郎は脇差を振り上げ、猫爺に向かって突っ込んでいきます。
「うわああああああああ!」
 胸をも劈く絶叫です。しかし猫爺に触れる前に、猫爺の手から蜘蛛の巣(みたいなもの)が放たれ、角太郎は身動きできなくなってしまいます。
 ここで玉梓の首が現れ、雲国斎の三味線と語りが入ります。一旦、舞台上の全ての動きは止まります。憎め、憎め、憎しみこそ人間の本当の姿なのだ、と、唸る玉梓。雲国斎がはけると物語は再開します。
 猫爺が手を振り、蜘蛛の巣で動けなくなった角太郎は呻きながらぐるりと回ります。が、何とか脇差で蜘蛛の巣を切り払い、配下の化け猫たちも振り払い、猫爺に一太刀浴びせようとします。しかし、猫爺の爪の一振りで、角太郎はやられてしまいます。
「うわ!」
 呻き声を上げ、舞台上手奥へと倒れ込み、気を失ってしまいます。
 このシーンにそぐわない感想になってしまいますが、ちょっぴり色っぽかったりしたのでした☆ 角太郎の不思議な魅力の為せる業でしょうか。
 村雨丸を探しに来た犬飼現八と犬塚信乃が現れ、猫爺を見取り、退治しようとします。が、全く歯が立たず。逆に猫爺は、妖力を用いて二人を呪い殺そうとします。強大な妖力が屋敷までも揺るがし、角太郎は目を覚まします。猫爺は自分の妖力に夢中になっていたのか、小文吾と壮介に両足を捕まれ、動けない。仇を取るチャンス。
 角太郎は脇差を構え、今だ角太郎、父の仇を取れ、という壮介の言葉に、
「父の、かたきー!」
 半ば泣き叫ぶように絶叫し、再び猫爺に向かっていきます。全てを捨て、頭にあるのは相手を倒すことのみ。一心不乱、そんな絶叫です。今度は脇差で猫爺に一撃を与えることができました。しかし、猫爺はやられた素振りをしてみせ、おちゃらけて、角太郎を振り払います。
「うあっ!」
 呻き声を上げ、舞台上手に倒れる角太郎。
 ここで、現八が後ろから猫爺を斬り付け、その隙に信乃が村雨丸を奪います。抜刀するとそれは眩い輝きを放ちます。信乃は村雨丸を使い、見事、猫爺を倒します。その間、角太郎は横たわったまま、事の成り行きを目を見開いて見守っています。
 現八が、大丈夫か、と、角太郎に言います。
「はい……」
 悄然と返事する角太郎。何とか立ち上がり、
「あの……」
 と、信乃たちに声を掛けます。
「父の仇を取って下さり、ありがとうございました」
 ぐったりとした、泣き出しそうな声で、角太郎は頭を下げます。父を失ったことに対する悲しみ、仇は取られたことへの安堵、それに戦いによる疲れが入り混じった、弱々しい声です。
 声の震え加減から、それらが切々と伝わってくる、久美さんの卓越した演技力です。
「わた……」(私は……と言おうとして)
 と、角太郎は、はたと気付きます。玉が光り輝いていることに。
 袖の下から玉を取り出し、はっと息を飲みます。
 皆、玉を、という壮介の言葉に、玉を持ち、皆、舞台前面に出てきます。紗幕が下りてきます。左から、壮介、現八、信乃、小文吾、角太郎、という立ち位置です。
 伏姫様と大輔様が我々を呼び寄せたのだ、と現八が言うと、五人の犬士たちは名を名乗り、ポーズを決めます。
「犬村角太郎」
 三番目、信乃、現八の次に角太郎は、凛々しい声で、右手に持った玉を前に突き出し、ポーズを決めます。低めの声は、やはり久美さんの大きな魅力です。痺れちゃいます☆
 最後は、壮介が、犬川壮介です、とレニ風にあっさりやって、皆と一緒に角太郎もずっこけます。
 不思議なめぐり合わせでこうして五人がそろいました、と、信乃が言い、五人は山下定包打倒を誓います。
「応!」
 玉を前に出し、中央に集めるように寄せ、気合を入れます。
「応!」
 そして下手へとはけていこうとするのですが、伝言を携えた松五郎の子分(武田)がやって来ます。が、武田は全然、台詞を言えず、挙げ句の果てにマリアの名前まで出してしまう状態。その間、角太郎(ここではアイリスですね)は、うつむいたり、信乃と顔を見合わせたり、情けなさそうな顔になったり、うんざりした顔になったりします。
 千秋楽では、(このシーンに限らずですが☆)武田を独り放置して喋らせていたのですが、やがて信乃と現八がかったるそうにしゃがみ込み、角太郎はうつむいて笑っていたのでした☆ 何とも久美さんらしい反応です。しゃがみ込んだ二人を見て、一瞬、どうしようかと迷いの入った表情になったのも、アドリブが不得手な久美さんらしいところです。



 
 
二幕クライマックス.
 場所は山下定包の城。毛野を手土産に定包に仕えに来た道節。今まさに道節が毛野を斬ってみせようとしたその時、犬士たちがなだれ込んできます。
 角太郎は一番最後、しんがりを務めています。後方からの敵を警戒しながら、道節の方を見て驚きます。そして定包の命令で道節が毛野を斬ろうとした瞬間、
「駄目ー!」
 やめろー! という小文吾の声と重なりながら、角太郎は制止の声を上げます。
 が、道節が斬ったのは、毛野を縛っていた縄。毛野は定包に斬り掛かり、それを止めようとした側近の刀を道節が封じます。
 ここからは、七犬士たちと定包の対決、殺陣のシーンです。
 定包は非常に強く、最初、犬士たちを圧倒します。
 角太郎は脇差を逆手に、舞台下手で隙を窺っています。摺り足で移動しながら、時に素早く飛び退いたりしながら。
 腰を落とした前傾姿勢、舞台に足を摺り合わせながらにじり寄っていく後ろ姿が、このシーンのポイントです☆ 自然、心臓が高鳴ってくるほど迫力があり、素晴らしく格好良いです。後ろ姿から、迫力が風となって吹いてくるような、そんな感じ。今も瞼の裏に焼き付いている活人画であり、胸が熱くなる姿です。
 やがて戦況は変わります。角太郎と壮介が二人掛かりで定包の刀を止め、その隙に信乃が村雨丸で斬ります。猫爺の時と同じように、大きくダメージを受ける定包。怒りに任せて道節に斬り掛かり、妖力で犬士たちを牽制します。雷撃を受け、他の犬士たちと同様、角太郎も呻き声を上げて怯みます。
 その隙に定包は、大ムカデの術を使ってきます。不気味な笑いと共に張り出し舞台から奈落へと消えていき、舞台両端から火の玉が現れます。
 張り出し舞台へと集まってきた犬士たちは警戒します。
 角太郎は火の玉に一瞬、驚き、たじろいだ表情を見せますが、壮介と顔を見合わせると、厳しい顔に戻ります。たじろいだところを見せるのが、角太郎がまだ青い、そして元がアイリスであることを考えれば、ぴったりなリアクションでしょう。それをごく自然に見せられる、それでいて観がいのある、久美さんの演技の面白さです。
 定包と入れ替わって現れたのは、毒の息を吐く大ムカデ。他の犬士たちと共に、角太郎も脇差を逆手に挑みますが、激しい毒の噴射を受け、口元を袖で覆いながら退き、体勢を崩してしまいます。
 しかし里見家の毒見役の家として、幼い頃より毒を食ってきた壮介が毒を撥ね退け、見事、大ムカデをバラバラにします。
 バラバラになった大ムカデたちとそれぞれ、犬士たちは戦います。角太郎も脇差を逆手に、距離を取りながら大ムカデたちと対峙します。
 こうした一連の殺陣のシーンで特筆したいのは、角太郎の目の輝きです。山下定包打倒の信念、戦いに集中している神経が、目の色に現れ、爛々と輝いているんです。惚れ惚れする格好良さです☆ とっても良い表情をしていました。
 バラバラになった大ムカデたちとの戦いは、犬士一人一人に見せ場を与える演出で締め括られます。それぞれ大ムカデたちと刃を交え、制止した格好となり、順番にやっつけていきます。
 角太郎は客席に背中を向け屈み込んだ格好で、大ムカデたちの一匹に、脇差を携えた右手を押さえ付けられた姿勢で制止しています。そして小文吾が二匹一遍に倒すと、角太郎は大ムカデの腕を振り払い、脇差で斬り付け、やっつけます。
 が、奇声を上げて大ムカデは合体し、元通りに戻ってしまいます。再び毒の霧が犬士たちを襲います。角太郎は屈み込み、信乃と庇い合いながら、何とか立ち向かおうとします。
 と、そこへ、巨大な蛙に乗った道節が、煙と共に舞台中央奥より現れます。道節の術の前に、段々と大ムカデは弱っていきます。
 そして、さあ、皆、力を合わせて、という道節の言葉で、六人の犬士たちはそれぞれ左右から、交差する格好で大ムカデを切り裂き、見事、退治します。角太郎は下手から上手へ、逆手に持った脇差で、大ムカデを裂き、そして暫し、大ムカデが倒れる気配を感じ取るように、じっとしています。
 この最後の止めの数瞬は、大ムカデを倒すため、皆と力を一つにしようと集中した角太郎の眼差しが、震えるほどに素敵でした。
 本当に殺陣のシーンの久美さんは、非常に良い表情、輝いた眼差しをしていました。特に目の輝きは最高に格好良かったです。
 大ムカデが張り出し舞台から奈落へと消えていくと、玉梓の怨霊が現れます。皆、玉を出せ、という道節の言葉に、
「応!」
 と、他の犬士たちと一緒に、玉を袖から取り出します。すると玉梓の怨霊は、妖力を失い、苦しみながら消えていきます。
 弱った定包が奈落からせり上がってくると、毛野と現八の仇討ちとなります。その間、他の犬士たちは静かにそれを見守ります。角太郎は、僅かに顔を動かしながら二人の動きを、落ち着いた眼差しで見つめていました。
 山下定包が断末魔の悲鳴を上げながら奈落へと消えていった後、小文吾が、兄弟に手を掛けようとした道節を責め立てます。が、斬られるとは思っていなかったという毛野や、敵を騙すにはまず味方からという現八や、あなたを信じますという信乃の言葉で、皆は一つに。
 と、不意に角太郎が気付きます。
「あ……だが未だ玉が足りません」
(「あ」は聞こえるか聞こえないかくらいの声の大きさ)
 半歩、皆へと歩み寄り、戸惑うように角太郎は言います。
 仁の玉が足りないことに皆、気付きます。舞台前面、中央に皆、集まり、幕が下りてきます。
 道節が八つ目の玉について、一つの考えを導き出します。
 伏姫様が帰依されたのは北斗の神、それは即ち北斗七星。我ら七つの玉を持って、無限に輝く八つ目の玉を探し出せということなのでは。そしてそれは未来。憎しみの無い、愛に満ちた世の中。伏姫様や大輔様や里見義美公が望まれた世……。
 幕が上がり、紗幕の向こうには里見の者たちが……。
 そして七犬士たちは、八つ目の仁の玉持つ兄弟を探し出すことを誓います。
 角太郎の台詞はこれです。
「約束しよう」  一歩、前に出てきます。
「私たちは必ず君を探します」
 遠くを見つめ、そして遠くを見つめた声音で、静かに、胸の内では仄かに炎が燃えるような、そんな角太郎の台詞です。終盤の日程では、それまでより幾分、力の入った台詞回しになっていました。
 七犬士たちは張り出し舞台の中央に集まり、空を見上げ、そしてスポットライトを浴びながら奈落へと消えていきます。角太郎は右側の中段で、中腰になった姿勢。希望に溢れた、瑞々しい表情でした。
 この後、雲国斎が三味線と語りで、お話しを締め括ります。ほっと一息つかせてくれる、ああ、楽しかったと胸の中で締め括らせてくれる、素晴らしい歌い回しでした。
 二幕のラストは、『未来の兄弟たちへ』。
 階段状になった舞台で、七犬士たちが横に広がりながら、力強く勇ましく歌います。落ち着いた感の振り付けで、これから八人目の兄弟を探す長い旅が続いていくという雰囲気が出ていました。
 角太郎の凛々しく、自信に溢れた、そして美しい表情……女性が男性を演じることの、何とも言えない色気、美しさ、それが存分に表れた表情が印象的でした。
 また、階段を下りていくところで、他の犬士たちと腕を打ち合わせる角太郎も素敵でした☆
 二番を歌い終えると、全員、張り出し舞台に出てきて、一人一人、玉を真っ直ぐ持ち、あてがわれた文字の意味を言います。
 仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌。文字を言うときは、全員で口を揃えます。角太郎は左側真っ直ぐを向き、凛々しい表情で、落ち着いたトーンで声を出していました。
 そして角太郎の玉は「礼」です。
「敬って人の道に生きる」
★★★★★★★★
 今回、久美さんのアイリスは、二幕で大活躍しました。今までの歌謡ショウでは二幕では比較的、出番が少なかったので、まず単純に誇らしい気持ちです。
 そしてアイリスが原形にあるとは言え、舞台の上では初めての少年の役です。宙吊りに挑戦したことに加え、これも久美さんにとって大きな進歩となったことと思います。中性的という言葉では表現しきれない、不思議な魅力さえ持った角太郎を、見事、演じてくれました。
 礼儀正しく、優しく、あどけなく、お坊ちゃんで、けれどしっかりとした芯を持ち、勇ましくもあり、凛々しくもある。他の六人の犬士たちと比べ、最も表情豊かで、魅力に幅があったのではないかと思います。
 今回の「八犬伝」で久美さんは、出番さえあれば久美さんのアイリスは二幕でも存分に活躍し、観ている人に感激を与えられることを証明してくれました。
 やっぱり、やれば久美さんはできるのです☆


「フィナーレ」
     そしてカーテンコール……
 アンコールの拍手の後、幕が上がり、いよいよフィナーレです。『花のように夢のように』。長い前奏が続き、その間、ダンサーさんから始まり出演者の皆さんが挨拶をして去っていきます。最後に花組が出てきて、歌が始まります。
 柔らかく、可愛らしい感じの振り付けでした。『夢見ていよう』の雰囲気に近いかもしれません。
 どこまでも優しい笑顔で歌い踊るアイリスが、とっても可愛かったです☆ 多分に久美さんらしい、久美さんだからできる笑顔、という感慨を抱きましたが、いかがでしょうか。
 二番を歌い終えると、CDには無かったパートが☆
 『〜その笑顔、その拍手、忘れません〜』で、両手を重ねて胸に当てるところが、嬉しいことこの上無いフレーズでした。あったかい気持ちで胸がいっぱいになって、目もウルウルしてくる、とても感動的な場面☆ アイリスの、両手を重ねて胸に手を当てる仕草は、胸がとろけそうになるくらい可愛く、優しげなものでした。久美さんの感謝の気持ちが伝わってきて、とてもとても幸せな気持ちにさせてくれました。
 アイリスの、久美さんのダンスは、この曲で最も分かるのですが、爪先から指先まで綺麗に見せることができる、というのが一番の特徴であり長所です。何も無い空間からそれこそ天使の羽根でも紡ぎ出しそうな、白く細く美しい指を以て、軽やかに、流麗に、時にアクセントもばっちり決めて、久美さんは踊ります。
 この『花のように 夢のように』では、吸い込まれそうになるくらい可愛らしく踊っていました。二の腕から指先に掛けての動きが特に綺麗で、思わず息をするのも忘れてしまいます。圧倒的な迫力です。
 ダンスのレベルで言えば、久美さんは決して一番ではありません。が、指先から爪先までしっかり綺麗に、振り付けを表現できることに懸けては、久美さんの右に出る人はいないでしょう。そしてそれがアイリスの個性となって、花組の中に溶け込み、花組のハーモニーに厚みを加えている。で、一度、アイリスに目を向ければ、その指先で心を優しく掴むダンスを見せている久美さんがいる。
 久美さんのダンスは高みに向かうばかりです☆
 『花のように 夢のように』が終わると、『ゲキテイ』で最後の締めです。
 張り出し舞台に集まって、華麗に歌い踊っていました。アイリスは左側升席から観ると丁度、真正面の位置で、『花のように 夢のように』とはまた違った快活な笑顔で、可愛らしくスカートを舞い上がらせてダンスしていました。
 『ゲキテイ』が終わると、ラストはいつも「全国の大神中尉に敬礼!」です。さくらが升席、桟敷席について話している間、そちらに向かってにっこりと微笑んでみせるアイリスが印象的でした☆
 カーテンコールでは、舞台前面に出てきて、花組全員で横一列に手を繋いでお辞儀していました。客席のあらゆるところ、可能な限り手を振ろうとしている久美さんが、とっても好ましく素敵な姿でした。
 いつもはカーテンコールは一度ですが、千秋楽では三度ありました。二度目は細長い棒状のクラッカーを持って、客席に向かって盛大に発射☆ すると、舞台上に沢山のピンポン玉が落ちてきて、花組始め出演者の皆さんがそれを客席に向かって投げ始めたのでした。そして三度目では、「新春歌謡ショウでお会いしましょう」という幕を張った光武が張り出し舞台に出てきて、続けてピンポン玉を客席に向かって盛んに投げていました。ピンポン玉には、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八文字のうち、どれか一つが書かれていたようです(書かれていないものもあったようです)。
 両手に持てるだけピンポン玉を持ち、やたら嬉しそうな笑みを浮かべて、舞台後方でうろちょろしている久美さんの顔が、今も瞼の裏に焼き付いています。
 ……というところで、「スーパー歌謡ショウ」のレポートはこの辺でおしまいです。
 久美さんは、今回も頑張りました。
 空を飛び、舞台の上で初めて少年役を演じた。
 誰よりも大役で、誰よりも頑張り、誰よりも感動を与えてくれました。
 今回の「スーパー歌謡ショウ」で何よりもスーパーだったのは、久美さんのアイリスなんです。歌謡ショウをスーパーにした最大の功労者は久美さんです☆

 

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