・・・アリスの思い出アルバム・・・
心の赴くままに書き綴った、
50回記念公演「アリス イン ワンダーランド」
についてのお話です。


 神様の宝物。
 50回記念公演において久美さんが演じたアリスの可愛さは、正にそんな感じでした。いえ、こんな程度の言葉では表現し切れません。もう、敵無しの可愛さ、無敵の可愛さです。
 久美さんの可愛さはこんなものではなかった、まだまだ久美さんは可愛くなれるんだ、ということを強く認識させられたアリスでした。
 確かに、久美さんは若いです。美しいです。可愛いです。でもそれは些細なことに思えました。舞台上でアリスが発していた輝きは、外見や衣装で出せるものではありませんでした。目には見えないけれど、強烈な光が全身から放射されていました。
 久美さんの蓄積してきた経験と演技力。それの成せる業。友の会の会報やインターネットラジオの「演劇魂」で、愉しげながらも弱気でいっぱいいっぱいな久美さんでしたが、最高の成果を見せてくれました。
 久美さんは凄いです。
 今、思い返して、考えてみて、背筋がぞくぞくするのは、久美さんが演じたアリスの子供らしさです。
 一部、ギャグのシーンで、ちょっぴり久美さんとしての顔が覗く場面もありましたが、一挙手一投足、やんちゃで元気な子供らしさに溢れていました。
 久美さんのアリスの衣装は、赤いタータンチェックの洋服(膝上15センチくらいの、とっても丈の短いスカートです。久美さんがご自分でお買いになったそうです)に白いエプロンを付け、下は白いニーソックスと黒いパンプス。
 良いところのお嬢様でもあるのだけれど、とってもやんちゃなアリスなので、ばたばたと動き回り、木登りまでしようとします。ですから、太股などがいっぱい見えてしまうのですが、その点は露ぞ気になりませんでした。理由は簡単。久美さんが完全に10歳に、子供になっていたからです。
 アリスのキャラクター。元気いっぱいでやんちゃで、優しく賢く勇気りんりん、可愛い女の子。久美さんの演技により、そういったアリスの魅力が舞台と客席を完全に席巻していた。例えば・・・別の大人の女性の役であれば、わあ☆と喜んでいたかもしれません。でもアリスは違いました。舞台にあったのは、アリスの魅力であり、子供になっていた久美さんでした。そう感じることができたのは、いかに久美さんが子供に、10歳になっていたかの、大きな具体性を持った証明であると思っています。
 久美さんとアリスの、距離感と言うのでしょうか。この近しさ。前回の再演の時と比べ、アリスで久美さんが最も進歩した点はこれです。私の知識では説明しにくいことですが、久美さん自身がおっしゃったいい言葉があります。「ドリマガ5/10号」での久美さんのインタビューです。「『それは大人が演じてる子供だよ』とダメ出しされたのを痛烈に覚えています」。もしかしたら、前回のアリスと今回のアリスの最大の差はここなのかもしれません。
 今回は、久美さんとアリスの距離がゼロに等しかったんです。なかなか分かりやすい言い方で説明できないのですが、久美さんとアリスの間が、とても張り詰めていたんです。迫力があり過ぎるくらいあり過ぎた。だから、表情・動き・仕草が実に自然でした。はまり役、と言えば簡単ですが、そんな言い方では安っぽい、もっと高いレベルで久美さんはアリスになっていた、そんな気がします。正に久美さんらしい、そんなアリスなのだけれど、久美さんではない。久美さんの影はそこには無い(場面によっては久美さんが顔を出したり、久美さんご自身について言及しているギャグが出てきたりしますが)。
 歌についてもこれは言えます。自然にすらすらと歌声が身体から出ている感じで、非常に柔らかな歌声になっていました。これを上手になったと言うのでしょうが、アリスの気持ちが染み渡った良い表情で、気持ちたっぷりに歌い上げていました。
 さて、今回の公演のキャストを載せながら、アリスがどんなだったか書いてみます。因みにストーリーや話の構成は前回再演時と同じです。登場順に、アリスとの絡みについてかいつまんで触れていきます。

チェシャーキャット=山口勝平さん
 とってもコミカルで、正に夢の世界への案内役。独特の雰囲気を纏った見事な勝平さんでした。また非常に重要な役どころでありながら、アリスの可愛さを存分に引き出してくれた役でもありました。
 チェルビン(きれいな子供)と彼に言われ、「ふ〜ん」と得意そうに喜ぶアリスの笑顔が、可愛いポイント☆☆☆☆でした。
 「チェ、チェ、チェ〜」と手を取り合って踊ったり、イギリスの西の方から来たと言う彼に「嘘」と言うものの、「本当?」って言いなさいと言われ、小首を傾げて「本当?」って言うところなども、可愛いポイント、☆☆☆です。
 自分が友達のリデルを助けに行こうとしていることを説明しながら、彼のしっぽをぐい、と踏み付けたりもします。
 彼はアリスに冒険のヒントをあげます。「いいわー!」と手を叩いて喜ぶアリスが、可愛いポイント☆☆です。
 そしてチェシャーキャットとのシーンのハイライト(笑)。第一ヒントは「チェチェチェのチェ」。三つのチェで始まったアリスの冒険。チェルビン、チェシャーキャット、チェスナット(頭上に広がる大きな栗の木)、そして四つ目のチェがあり、それと出会わなければならないということ。そうそう、チェシャーキャットと自分を指す彼の手を取り、「肉球〜ぷみぷみ」と触るところ、可愛いポイント☆☆☆です。それから、「チェス・ナッ・ト」と、両手を頭から肩、肩からO字形に開いた足にリズミカルにやっていく様が、可愛いポイント☆☆☆☆です。四つ目のチェを考えるアリスですが、ここが回によって変わっていた時がありました。
 「チェリーかしら。それとも・・・かしら」の・・・の部分です。初日はチェコレート(チョコレート)でした。2日目からはチェらやましゅうじ(寺山修司)で、チェシャーが、チェリーでもチェらやましゅうじでもない、ましてや、チェらおあきら(寺尾聴)でも、チェらうちかんたろういっか(寺内貫太郎一家)でもない、と返していました(笑)。
 土日の昼は、チェいんとチェいや(聖闘士聖矢)で、チェシャーが、チェくらたいせん(サクラ大戦)でも、チェろーれでぃりん(ハロー!レディリン)でもないと返していました(笑)。土の夜はチェー!(シェー!)(笑)で、詰まってしまうチェシャー(笑)。
 そして楽はいきなり、「チェーンソー」(笑)。もっと可愛いの、と言われ、「可愛いチェーンソー」と言うアリス(笑)。最後はつまらなさうに、「じゃあチェリー」と言うのでした(笑)。
 第二ヒントの歌を歌うチェシャーの仕草に合わせ、見よう見真似で踊るアリス、可愛いポイント☆☆☆☆です。更にチェシャーが去った後、アリスは思い出し思い出ししながら、仕草を付けて歌うのですが、これは可愛いポイント☆☆☆☆☆です! 「レンズに、チャチャッ、うつさば、チャチャッ」は、幾ら☆を付けても付けたりません。

オープニングダンサー=
(男性陣)
 河本浩之さん、柴山ゆたかさん、清水健児さん、鈴木淳さん
(女性陣)
 長山左斗子さん、末次加奈さん、橘U子さん、松本貴子さん、上岡志輔子さん、森佳子さん、永木貴代子さん、広瀬かおりさん
 久美さんを中心に、主題歌に乗って華やかに派手に踊る久美さんズです(笑)。ベテランから若手まで勢ぞろいです。
 アザーサイドシティへの切符、子供一枚を掲げ、決意を固めるアリス。「リデル」の歌を柔らかな声で感動的に歌い上げ、舞台右手からセンターへ行く。アリスが満面の笑顔で右手を振り上げた瞬間、歓声が上がり、舞台左右、客席後方から久美さんズが集まり、主題歌が始まる。この流れは思い出すたび、胸が熱くなります。
 歌が終わり、女性陣がはけていった後、バックで男性陣が次のシーンのソファーやテーブルなどを用意している間、一人、照明を受けてアリスは舞台前面で軽やかにステップを踏んで踊ります。とびっきりの笑顔で踊る姿は、久美さんを好きになって良かったと思えるほど素敵なものでした。

アリスの父=久保克夫さん
アリスの母=百々麻子さん
 アリスと実際に絡むのはラストになりますが、ここはアリスがいなくなって大騒ぎするシーンです。
 ラブラブな感じが素敵な夫婦でした。呑気な久保さんと、ラブラブ光線発射中な百々さん。百々さんがやたら可愛かったです。更にアリスを起こしに行って、アリスがいないことに気付き、「あなた! あなた!」と階段を駆け下りてきて、最後の数段、爆発するみたいに(笑)「あなたー!」と叫んで飛び下りるところがイカしていました。
 アリスが残した書き置き(鏡に映さないと読めない、なぞなぞ付きのもの)をキャロル先生(後述)と一緒に読むのですが、客席前列からだと、裏から透けて見えるので、アリスの母が鏡に映して読み上げる(舞台左側前面に鏡があるという設定)前に、ばっちり見えて、おいしかったのでした。しかも久美さんの直筆で! 書き置きの最後を「チェキラ」で締め括っているところが、個人的にかなり好きでした。何気に「チェチェチェのチェ」に絡んでいますし。

キャロル先生=黒瀬浩二さん
 アリスの家庭教師であるキャロル先生は、アリスとボートに乗る約束をしていて、家に訪ねてきます。アリスの書き置きのなぞなぞを解き、アリスがいなくなったのは自分の責任であると、昨日あったことを話し始めます。ここから先が回想シーンになり、アリスと先生のやり取りを、アリスの父母が舞台左手から眺める格好となります。
 ティーカップとチェス盤を両手に持ち、そろりそろりと入ってくるアリス。こぼさないように慎重に慎重に、真剣な表情、特に全身が強ばっている様子が子供らしく、良い具合でした。
 キャロル先生の歌が入り、身体を揺らして反応したりする様も子供らしさと可愛らしさに溢れていて、呼吸をするのも忘れてしまうほど(三公演ほど、いきなり自分が息を吸う音がもろに聞こえて、自分でびっくりしたことがありました)。
 チェスのやり方を教えてもらおうと、ソファーから床にぺたん、と座るところ、可愛いポイント☆☆☆☆です。
 これは毎回、微妙に変わっていたと感じたところ。写真を撮るため、先生はアリスを椅子に座らせようとします。ちょっとふてくされたような顔になって、アリスは椅子に座るのですが、顔を上げ、表情を作ろうとする瞬間の演技の加減が毎回、揺れ動いていたように思いました。本当に一瞬の一瞬、笑顔になった回もありました。大体、澄ました顔になって、神妙な顔になって、リデルのことを口にするのですが、そのあんばいの違いが妙に気になった私です。皆さんはいかがだったでしょうか。
 因みにひょうひょうとした演技でさらっと流していく黒瀬さんでしたが(前回よりも落ち着いた感じでしょうか)、終盤でとんでもないものを見せてくれます。

マッドランド・ハッセル卿=清水健児さん
 巨大なシルクハットを被った、酔っ払いのおじいさん。とてつもなくハイテンションな演技を魅せてくれた清水さんでした。
 アザーサイドシティに行く汽車を探して困っているアリスの前に現れるのが彼。その前に、「汽車はどこ〜」と情感たっぷりにしっとりと歌い上げるアリスも見事。そして一斉に汽笛が鳴って、「あ〜ん」と泣きながらぐるりと回るアリスも可愛いポイント☆☆☆です。
 ハッセル卿が自分の研究を自慢気に話している間、アリスは彼のトランクの上にちょこんと腰掛けて、?な感じ、呆れた感じ、うんざりした感じの表情をしていきます。この辺の、どうしようか・・・、という困惑気味の感情も表情にほのかに現れて、良い具合でした。
 「なるほどー! とっても素敵なご研究ですわー!」
 目一杯の笑顔でぱちぱち手を叩き、無理やり話を切り上げて、「で! あたしたちの乗る汽車のことなんですけど!」という流れ。個人的に好きなので、取り上げてみました。
 そしてこのシーン最大の可愛いポイント。汽車に乗り込み、席に着いたアリスとハッセル卿。アリスが窓を開けて喜ぶ後ろ姿が完全に子供にしか見えず、思い返すに素晴らしい数瞬間。肝心の可愛いポイントは、この後、寝るよと言った直後、いきなりいびきを掻き始めるハッセル卿に対し、「はや〜」(早〜)と柔らかな声で呟くところ、☆☆☆☆です。
 汽車に乗り込んで、「空いてるわー」と喜ぶ台詞も、捨て難くて可愛いポイント☆☆☆です。

車掌=井田国男さん
見えない客たち=
 宮下タケルさん、川鍋雅樹さん、片山諭さん、古賀大賛さん、鈴木淳さん
 満員の客席に空席が二つもできてしまった。
 あべこべなことを言って、アリスたちを車内から放り出す役の井田さんはその太い声とうまく相俟って、どろどろした雰囲気を出していました。また、不気味なダンスを披露した、見えない客たちは黒子さんみたいな衣装で登場していて、顔などは全く見えなかったのですが、タケルさんが入っていたのには驚きでした。
 さて、ここでのアリスで筆を割きたいのは、得意そうにエプロンドレスのポケットから切符を取り出し、つんと顎を上げているところです。可愛いポイント☆☆☆☆です。
 でもその切符は車掌によって真っ二つに破られてしまいます。行き先の書いてある切符なんて認められない。ひらひらと舞い落ちる切符を、短い呻き声を上げながら大慌てで掴もうとするアリス。毎回、観ても、見がいがあると思える動きをする久美さんは、もう、さすがの一言です。
 最後には車掌さんにお姫様だっこされる形で舞台右手へと消えていき、汽車から下ろされてしまいます。観ていた最中、観た後、不思議と(本当に不思議と)これを羨ましいと思わなかったのは、やはり久美さんの演技の迫力のおかげでしょう。

(お花さんたち)
鬼ゆり=田中美穂さん
バラ=松本貴子さん
マーガレット=水樹じゅんさん
パンジー=川内一子さん
カーネーション=森佳子さん
チューリップ=石川仁美さん
タンポポ=永木貴代子さん
ウツボカズラ(食べられちゃった河童)=西川順也さん
イモムシ1=竹内礼美さん
フンコロガシ=山本善仁さん
黒のポーン<少女誘拐団>=
 片山諭さん、古賀大賛さん、関根通晴さん、波岸泰介さん、木村じゅんさん、笹倉宏之さん、久富宣之さん
 カーテンコール以外で、最も登場人物が多いシーンでしょうか。
 薄暗い舞台で、「ここはどこなのかしら・・・」と静かに歌うアリスがとても幻想的な冒頭でした。
 そして歌い終わると、お花さんたちが一気に舞台中央奥から溢れ出してきます。鬼ゆり以外、自分の花の名前を繰り返し言いながら出てきます(「バラバラバラ」とか「パンジーパンジー」とか)。お花さんたちのメインは、鬼ゆりの美穂さんとバラのたあこさん。偉そうなリーダー格の鬼ゆりと、マイペースでぼけた感じのバラが、愉しいキャラクターを披露していました。
 ここでのアリスの魅力は、お花さんたちに囲まれ、やっぱり困っているところです。自分が人間であることを必死に説明しようとしているのだけれど、挙げ句の果てにスカートまでめくられて、「これ、スカートです・・・」と泣きそうな顔で言うところなんて、胸が締め付けられほど。困っているアリスに、可愛いポイント☆☆☆☆☆です!
 更に後のシーンでも出てきますが、アリスが自分は人間であると言う時にする仕草も、素晴らしく可愛かったです。「こういう、こういう、にん・げんっ」と言いながら、右手と右足を同時に上げ、左手と左足を同時に上げ、両手を右、左へと突き出す仕草。アリスのトレードマーク的な、とっても素敵な仕草です。
 さて、お花さんたちに囲まれながら、アリスはイモムシと思われてしまうのですが、そこへ出てくるイモムシ1がまた強烈なキャラクターでした。やさぐれたおっさんみたいな感じ(笑)。電話の音を唇で出して、沢山ある脚の一本をちぎると、それは携帯電話(笑)。「イモムシムシ」(もしもし)と答えるイモムシ1。電話からの指示で、何故か、欽ちゃん歩きをします(笑)。
 後でアリスが「イモムシは、イモ・ムシムシ」とお花さんたちに言ってみせるところも、可愛いポイント☆☆☆です。因みに千秋楽では、イモムシ1はかの有名な「命!」のポーズの取ったのでした。そして何と同じようにアリスも。「イモムシは、命!」とやってみせた貴重な姿(笑)を観ることができたのでした。
 イモムシ1が去った後は直ぐ、フンコロガシが出てきます。善仁さんの人間離れした台詞回しが炸裂です。ここはワールドカップのネタ。転がしてきたのはフンではなくて、サッカーボール。着ているのは、全日本のユニフォーム。「アリース! シュート」と、アリスにシュートをするよう要求します(笑)。舞台右方へとアリスはボールを蹴飛ばし、シュートが決まるとお花さんたちと一緒に飛び跳ねながら喜ぶ一幕(二日目はボールが二度も客席へと飛んでいってしまい、「パス」とお客さんに放ってもらう場面も。更に千秋楽では、いきなりボールを蹴る距離が長くなったものの、ばっちり決めたアリスでした)。
 最後はフンコロガシの手元に戻ってきたボールに、「ちゅ」とキスをするアリス(可愛いポイント☆☆☆☆です)でしたが・・・「でもそれはフンだったー!」と高らかに言って去っていくフンコロガシ、と言うか善仁さん(笑)。
 この後のアリスの反応は二つのバージョンがあり、一つは「フン!」と顔を突き出して言ってみせるパターンと、もう一つは背中を向けていたバラの花びら(お花さんたちは皆、花を背負っている格好です)で口を拭くパターンがあったのでした。特に後者は、可愛いポイント☆☆☆☆。このバージョン、たあこさんのお話では、本番でいきなり久美さんがやってきたとのこと。こちらの方が面白いことを考えると、やはり久美さんは凄い人です。
 また、少女たちを担いだ少女誘拐団こと黒のポーンたちが現れた時は、お花さんたちの間に隠れていたアリスでしたが、時折、顔をちょっと上げてみる姿がなかなか印象的でした。

白の女王=長山左斗子さん
白のポーン=丸山和子さん、神澤知子さん、佐野弘美さん
 自分を少女と思い込んでいる困ったおばあさん。長山さんの堂に入ったボケっぷりも見事なものながら、アリスにこれからの冒険の道行きを告げるところは、格好良い!の一言です。決めるところはばっちり決める台詞回しに胸を熱くさせられました。
 ここではお花と勘違いされて、じょうろで水を掛けられ、「やあ、つめた〜い」というアリスが、抜群に可愛かったです。可愛いポイント☆☆☆☆☆です。その拍子に突き飛ばされ、ひっくり返ったままの白の女王を見て驚いているアリスの表情も二重丸でした。
 これは初日、二日目、三日目、千秋楽に行われたネタですが、自分は少女とのたまう白の女王にアリスが年齢を尋ね、そこで白の女王がボケる場面がありました。寄席の真似をして、「それは演芸」とアリスに突っ込まれ、盆栽の手入れをする真似をして、「それも園芸」と突っ込まれ、最近、五重肩が・・・と言う女王に、「それは年齢」と言い、二人して「合ってるやん」、と、そんな具合です。回によっては、「それはさんぺいです」と三瓶の真似を一緒にしたり(初日と二日目。二日目は真似はしませんでした)、「それは伝令」というのもありました。突っ込まれて、呻く白の女王が、やたら面白かったのでした。
 年を取るということを考え出し、「私も年を取るのかしら・・・」と歌うアリス。「リデル」から始まり、これでアリスのソロは四曲になる訳ですが、迫力ある歌唱を聴かせてくれました。特に二番、舞台奥でしゃがみ込んだ格好となったアリスが、「ああ・・」と歌いながら立ち上がっていく様子は胸に刺さる力がありました。
 と、歌い終わると、泣いているアリスに白の女王はハンカチを差し出します。仁王立ちの格好で、「ぶーっ」と鼻をかんじゃうアリス。面白い&可愛らしい、ということで、可愛いポイント☆☆☆です。
 泣いてなんかいられない、と、少女誘拐団にさらわれたリデルのことをアリスは必死になって白の女王に向かって話します。避けようとする白の女王の行く手を遮りながら、アリスはどこに行けば黒の女王に会えるのか、一生懸命になって尋ねます。ここでの久美さんの演技は本当に素晴らしいです。一気にストーリーの中へと引き込まれていきます。胸にガンガン来る台詞でした。アリスが声を上げるたび、胸に震動が走る。そしてその迫力を受け継ぐように、白の女王が貫禄を発揮し、アリスにポーンヘッドを授けます。正にここは、前半最高のシーンです。
 「さあアリス。お行き。私とおんなじ小さな花」
 白のポーンとなったアリスは4の目へ!

 
   想像することがあります。
 舞台に立つことを。舞台に立つ大変さを。
 台詞を紡ぎ、相手の台詞に反応を返し、間を取り、また台詞を紡ぐ。
 どんな声音で、どんな風にどのくらいの気持ちを込めたらいいのか、どのくらいの間隔を置いてから台詞を言えばいいのか・・・。
 どんな顔で? その時の手の位置は? どんな具合に立っていればいいの? 脚はどんな感じ?
 演出の枠の中で、どうするのがベストなのか。
 毎日の稽古の中で、ベストに近付けていく。
 そして本番では毎日、ベストを見せなければならない。
 たった3分、舞台に立つだけで、身体中のもの全てを燃やし尽くしてしまうような、そんな気がします。
 素人考えだけれど、ただ台詞を言うだけで、これだけのことが思い付きます。役者だから、私たちが呼吸をするのと同じように、全てのことが自然にできるのかもしれません。私が思うほど大げさではないのかもしれません。でも、出発点が私たちが考えるより上にあるならば、ベストもやっぱり私たちが考えるより上にあると思っています。
 だから・・・。
 たった3分、舞台に立つだけで、身体の中のもの全てを燃やし尽くしてしまうような、そんな気がするんです。
 久美さんはおおよそ2時間半。
 舞台に立つ久美さんはとても大きく見えますが、終演後、そばで見る久美さんは驚くほど小さく、華奢です。台風が来たら、どこかに飛んでいってしまいそうなほど・・・。
 いつも柔らかな笑顔です。
 そんな久美さんが、2時間半です。

ダムダム=河本浩之さん
ディーディー=中嶋聡彦さん
 4の目でアリスが出会う、二人の男の子。と言うより、子供がそのまま大人になったような、道化コンビです。この役は再演時と同じキャスト。この方以外にこの役をできる人はいない、というような役が「アリス〜」には幾つかありますが、正にこのお二人以上に面白くダムダム&ディーディーをできる人はいないでしょう。ここは一番、アリスの世界からはみ出たシーンです(笑)。台本とも最も違うシーンであり、レオさん曰く、ここだけは自分が作家だそうです(笑)。
 白の女王によって4の目にやって来たアリス。そこは森の中。どちらに進めばいいか分からないアリスは高いところに登ろうとします。木を見つけて、「おおー」とちょっと低い声で言うところが、久美さんの演技らしくて秘かに好きなワンショットです。で、がばっと両足を開き、木にしがみ付く仕草をし、よじ登ろうとして顔に力を入れるアリスが、可愛いポイント☆☆☆☆。
 そこで、地雷探知器(ダウジングの棒)を持って現れたダムダム&ディーディーが、アリスの足下に地雷が埋まっていると言い出します。泣き叫び、目をつぶって顔をくしゃくしゃにするアリスが、面白く、そしてやっぱり可愛くて、ポイント☆☆☆☆です。ディーディーがスコップをアリスの足の下に差し込み、ダムダムがアリスの腕を引いて助け出そうとします。初日から何回か、楽の前、何回か、ダムダムが「ドカン!」とアリスの耳元で言って驚かしたこともありました(更にもう1回「ドカン!」と言って、ダムダムが自分で驚く回もありました)。それで泣き叫ぶアリスを可愛いと思う自分に罪悪感を覚えつつ、ポイント☆☆☆です。そしてダムダムと一緒に「セーフっ」とポーズを取るのが、とっても愉しい感じ。
 さて、もう☆の数が二桁になっていますが、この4の目のシーンは、久美さんが顔を覗かせていたシーンでもありました。アリスなんだけれど、素の久美さんがほんのちょっぴり顔を出していたんです。と言うより、レオさんに引き出されていたような、そんな感じ。久美さん混じりのアリスが魅力的なシーンでもありました。
 ダムダム&ディーディーは自分たちを正義の味方と称します。正義の味方と言って、何を思い付くと尋ねられ、飛び上「へんしーん!」と言うアリス、可愛いポイント☆☆☆☆です。と、ディーディーが手を上げ、ちょっとできると言い、シャツをめくってお腹を引っ込めます。うつむき加減になって、照れ笑いを浮かべるアリス(ちょっと久美さん笑い)が、可愛いポイント☆☆☆。
 平和のために戦う正義の味方。そこにアリスが「って言うかあ!」と突っ込みを入れます。現代っぽくて良い感じ、且つ可愛いポイント☆☆☆です。戦ったら平和を乱すことになるから、正義の味方ではない?という話に。しゃがみ込んで考え込む三人。何だか可愛らしいショットです。
 「クウガは戦うしねえ・・・」と、ぽつりと呟くアリス(笑)。本気で考え込む抑揚の付け方が子供子供していて、とっても良かったです。可愛いポイント☆☆☆を進呈です。因みにこれは回によって、「アギト」であったり「龍騎」であったりしました(笑)。「見てんだ」と尋ねるダムダムに、やっぱりぽつりと、「うん」と答えるアリスに、更に可愛いポイント☆☆☆☆です。「龍騎」の時は、「今朝、見てきた」と答え、「そこまで聞いてない」とダムダムに返されていました(笑)。
 そして、思い付くダムダム。水戸黄門の黄門様や助さん、角さんが正義で、それを応援して見ているのが、正義の味方、という変てこな理屈(笑)。この後、ダムダム、と言うかレオさん(笑)は、もう一つ、例として、とんでもない事例を上げるのですが、とんでもないのでここには書けません(笑)。で、レオさんは自分の発言に自棄っぱちになっちゃいます。メルヘンは似合わないだの、この歳になって半ズボン履くことになるとは思わなかっただの(笑)。
 その矛先はアリス、と言うか久美さん(笑)に向けられます。「大体、いつまでもおまえが可愛いからいけないんだ」とのたまうレオさん。ああ、何て嬉しい台詞なんでしょう。皆さんも嬉しいですよね。もう、これはレオさんに☆☆☆☆☆あげます(笑)。でも「10年20年、同じ顔しやがって」とか「もうそれは日本の化粧技術を超えているね」とか攻撃されちゃいます(笑)。えー?って顔な、久美さん混じりのアリスに、可愛いポイント☆☆☆☆です。挙げ句の果てに、「若さの秘訣はものを考えない、悩みなんか何もないところなんでしょうね」まで(笑)。この場面はレオさんのノリが大きく作用しているので、日によって台詞はちょっぴり違ったりしますが、大体こんな具合です。
 実は初日だけ大きく違いました。「胸を大きく見せるブラジャーと胸を小さく見せるブラジャーを使い分けているんだってね。まるで胸のロバート・デ・ニーロだね」なんて暴露(?)されて、アリスは完全に照れて困って、久美さん笑いを見せていました。久美さんの胸に、可愛いポイント☆☆☆☆☆です(笑)。また千秋楽では、「わたしも年を取るのかしら」とレオさんに真似して歌われ、照れてうずくまってしまう久美さんが印象的でした。
 「悩みあるもん」と、久美さんアリスが反撃する回もありました。でも「しょうもない悩みのことを皆にどうやって話そうかと考えることが悩みなんだろ」とか返されたり、「あ、何も言わなくてもいい」とか、「九九の八の段、言ってみろ、って言ったら言えなかったり」とか返されて、久美さんアリスは大概、負けてしまうのでした(笑)。その九九のエピソードからでしょうか。「九九の八の段を言ってみろ」と言われ、「はちいちがはち、後は教えてあげな〜い」と、唯一、アリスが勝つ回もありました。そんなアリスに可愛いポイント☆☆☆☆です。また、「はちいちがはち、にはち16、さんぱ24、しは32、・・・」と続けて、「それは八の列だろ」と突っ込まれる回もありました(笑)。
 さて話はだいぶ脱線してしまいましたが(脱線させているのはレオさんですが・笑)、久美さんが顔を覗かせるこのシーンは、久美さんファンにとっては更に愉しい、おいしい場面なのでした。
 話は戻って正義の味方。「あたしの味方にもなってくれない」と言うアリス。自分が友達のリデルを助けようとしていることなどを話すと、ダムダム&ディーディーはいたく感動します。「言えないよなあ、あんな恥ずかしい台詞」なんて、言ったりして(笑)。「アリスちゃん、あなたは正しく正義の天才です」と二人に言われ、「それほどでも〜」と両手を前に重ね、照れるアリスがこのシーンで一、二を争うほどキュートでした。可愛いポイント☆☆☆☆☆です。
 この話をダムダム&ディーディーはRPGと解釈し、アリスを勇者に見立てます。勇者を手助けするために二人が思い付いたのは・・・。
 「ドラクエ」ネタでした(笑)。誰でも一度は聞き覚えのあるだろう音楽が流れ、二人は宿屋の主人が言うような台詞を言って、「お泊まりになりますか?」と尋ねます(笑)。「???」と二人に交互に顔を向け、あたふたしているアリスが、可愛いポイント☆☆☆です。そしてあたふたしたまま、暗転し、舞台は真っ暗に(笑)。「え〜!?」というアリスの声がして、再び聞き覚えのあるSEが流れます。明るくなった舞台には、財布を掲げているアリスと、二千円札を掲げているディーディーが(笑)。泊まっちゃったのでした(笑)。「あたしの二千円札!」と取り返そうとするアリス。「ライフとMPは満たんになったから」と言うディーディーに、「MPなんていらないわよ。魔法なんて知らないもん」と憤慨するアリス。怒ったアリスもやっぱり可愛いです。可愛いポイント☆☆☆☆です。
 魔法を知らないと言うアリスに、今度は呪文が授けられます(笑)。またもや聞き覚えのあるSEが流れ、アリスはレベルアップ。ディーディーが「アリスはメラの呪文を覚えた」と言います(笑)。
 そしてこれが4の目最大の、可愛いアリスです。しぶしぶアリスは、言われるままに試しに「メラ」と言ってみます。すると熱がるダムダム(笑)。アリスは大喜び。どたばた走り回って、ダムダム&ディーディー交互に「メラ!」と言って、熱がらせます(因みに千秋楽では、ディーディーに「メラ!」と言おうと口を開いておきながら、何も言わず、ダムダムの方へと走っていったことありました。フェイントです!)。段々、調子に乗ってきて、物凄く楽しそうに「メラ〜!」と言うところが素晴らしく可愛かったのでした。ちょっと前までは久美さんが顔を覗かせ、脱線していた舞台だったのに、もうここでは完全に子供です。アリス・ドッジです。久美さんの凄さも評価しつつ、可愛いポイント☆☆☆☆☆です。やがてMP切れと宣告され(笑)、再び宿屋の真似をするダムダム&ディーディー。「もう1泊しますか?」と言われ、「しませんしませんしませんー!」と両腕をぐるんぐるん振り回すアリス。可愛いポイント☆☆☆☆です。そう、もう子供のアリスなんです。ここで久美さんが見せる可愛さ、キャラクターは。
 久美さんが顔を覗かせる、ということでは、ディーディーがアリスに対して「O脚」と指摘したところ、アリスが一生懸命、両脚をくっつけようとする一幕がありました。(上巻)でも触れましたが、太股の話になります。「O脚」であることは久美さんご自身からどこかでおっしゃっていたので、やはり久美さんを意識します。「大根」と同じで(普通、子供の女の子に大根足なんて言いませんよね)、アリスではなく久美さんを意識する数瞬間です。この二つの場面で、私は女の人として久美さんの脚にドキドキしました。けれど一方で、木登りをしようとして、大きく太股が見える格好の場面では、そういう意識は全然、生まれませんでした。
 今こうして書きながら改めて確信します。久美さんの演技力が為せる業であることを。久美さんのアリスの演技が、久美さんをアリスに変え、そのアリスの魅力だけが、自分の心を染めていた。可愛さ・元気・勇気・やんちゃ・優しさ。久美さんが表現するアリスから感じるそれらの魅力が輝くほどに強いから、「男性」である自分が「女性」である久美さんの部分を感じず、「アリス」を感じた。
 ちょっとHな例の上げ方ですが、いかに久美さんの演技が凄かったかを、多分に人に納得させることができる、私が上げられる事柄です。
 衣装を着て、髪型を変えて。それだけでも十分に可愛い久美さんですが、今回のこの舞台のアリスを語る上で、それは2〜3割程度だと思っています。アリスの魅力の大部分は、久美さんの優れた演技によるものだったんです。

 2時間半です・・・。
 恐ろしく過酷な長さです。どこかで倒れてしまってもおかしくない、そんな長さです。その上、歌わなければならない、踊らなければならない、走り回らなければならない。そして子供の高い高いテンション。
 久美さんがFOX公式HPに載せたコメントの中に、最近、感銘を受けたという岸谷吾郎さんの言葉があります。その中の一節として、「脳みそが生み出す発想と毎日正面から向き合い戦い共存する」というのがあります。凄まじい言葉です。久美さんが感じた言葉の向こうに、久美さんの苦労を感じます。「アリス〜」の中にある、アリスの無数の台詞、無数の表情、無数の仕草。演出を受けながら、久美さんも一つ一つ発想を生み出していったのでしょうか。
 こう、と決めたことをずっと覚えていなければならないし、駄目出しを受けて、いきなりそれを捨てなければいけないことだってあると思います。「ホントにまだどうなるか分からないんですよ〜」と、友の会の会報で久美さんがおっしゃっていました。色々と揺れ動く稽古の中で、本当にHAPPYな気持ちでお家に帰れた日は何日あったのでしょうか・・・。
 インターネットラジオの「演劇魂」で、「あたし、いっぱいいっぱい・・・」と漏らした久美さんの言葉が脳裏に焼き付いて離れません。

ビショップさま=寺崎真吾さん
 ようやく道を教えてもらえることになったアリスでしたが、ダムダム&ディーディーは4の目から出たことが無かったのでした。そこで、5の目からやって来たという偉いお坊さんを呼び出します。
 可哀相な寺崎真吾さんの登場です(笑)。「アリス〜」の世界観から最も離れた役にして、レオさんに苛められる役(笑)。ルーキーは大変です(笑)。  世界の四大宗教(イスラム教、仏教、キリスト教、ヒンズー教)を一つにまとめて布教している彼。代表的な動作を一遍にまとめてやっています。それを見てアリスは、「まーまーまーまーが仏教」という風に、嬉しそうに指摘していきます。子供らしさ溢れる可愛さがとっても良いです。可愛いポイント☆☆☆です。
 心労から言葉を失い、「まー」しか言えなくなったものの、逆立ちすると言葉が戻ってくるというビショップさま。ダムダム&ディーディーに手伝ってもらって逆立ちする彼に、アリスはぺたんとしゃがんだ姿勢で、5の目への道を尋ねようとします。
 で、この間、ビショップさまはレオさんに股間をいいように弄ばれたり(笑)、毛をむしって吹く仕草をしたり(笑)、初日や二日目などはパンツを脱がされていました(笑)。苦しそうに芝居を何とか続ける寺崎さんに、アリスはアリスのまま「ビショップ様?」「聞いていますか?」などと、上の惨状は露ぞ知らない顔で尋ね続けるのでした。久美さんってば(笑)。
 結局、レオさんが遊び倒した挙げ句(笑)、ビショップさまは手首を骨折してしまい、5の目への道を尋ねる手段は絶たれてしまいます。悲しそうな顔でアリスは、ビショップさまに深々と頭を下げます。うつむくアリスが、とても可愛らしかったです。可愛いポイント☆☆☆☆、且つ、アリスの泣きそうな気持ちが伝わってきて胸が痛むほどだった、というのも特筆すべき点です。
 アリスを慰めるため、ダムダム&ディーディーは大きな宝箱を持ち出し、いろいろなおもちゃを出してみせます。そして再演でも大きく盛り上がった、「パパからもらったクラリネット」ネタを始めます。「パパからもらったクラリネット」の替え歌で遊ぶ二人。「パパからもらったクラリネット」「おばあちゃんからもらったひきわり納豆」とやったところで、落ち込んでうずくまっているアリスの脇腹を、ダムダムがリコーダーでつっつくと、アリスが身動ぎして体勢を崩すところ、可愛いポイント☆☆☆☆です。「もう一押しだな」とラストは「ママからもらったガラスマイペット」。歌に入ると顔を上げ、笑顔になって二人を見やるアリス、そしてオチの後、立ち上がり、一緒になって手を叩いて飛び跳ねるアリス。最高に可愛かったです。前者の何ともいえない笑顔に関しては、可愛いポイント☆☆☆☆☆です!
 因みにアリスが立ち直って宝箱を興味津々に覗き込んでいる時、楽日の二回は「ワールドカップチケット」ネタでもう一曲、始めようとしました。でも持ち時間切れ(笑)で、歌う前に曲は切れてしまったのでした(笑)

 紫色の顔をして稽古場に現れ、帰った方がいいですよ、という言葉に対して、「でもぉ、みんなに迷惑かけちゃうしぃ〜・・・」とお稽古に臨んだこともあったという久美さん。
 稽古に必ず出なければならないという日ではありません。自主稽古の日にです。
 ずっと出ずっ張りな以上、当然、稽古も大変です。本番と同じように体力を使い、精神もすり減っていきます。それが毎日、積み重なっていけば、疲れも溜まります。一晩、眠って体力が回復しても、アリスを演る上で考えなければならないことがいっぱいです。考えなければならないことがあるということは、朝、起きて、それを意識しただけで体力を削るものです。そんな日々が続けば、いつしか身体も壊します。
 帰った方がいいですよ。
 優しい言葉に甘えたこともできたはずです。でも、帰らなかった。
 久美さんを突き動かしたのは、久美さんの中にずっとあったもの。そしてこれからもあり続けるもの。

コウモリ傘鳥の亭主=川鍋雅樹さん
コウモリ傘鳥の女房=橘U子さん
(コウモリ傘鳥の子供たち)
  カス=川内一子さん
  キラ=稲葉智恵子さん
  トコ=末次加奈さん
  ミニ=広瀬かおりさん
  マドンナ=上岡志輔子さん
  デン子=水樹じゅんさん
  デル=小沢雅子さん
イモムシ2=佐野弘美さん
 5の目では、アリスはコウモリ傘鳥の子供たちの誕生に立ち会います。
 優しく呑気な川鍋さんの亭主と、きっぷの良い感じ(でも何か大人げない・笑)のU子さんの女房、お二方の好演、それからそのラブラブっぷりが素敵なのも印象的でした。子供たちも七羽もいながら、それぞれ個性的。傘鳥たちの餌として食べられそうになる佐野さんの、「F・f・ーエフー」の老婆の一人をほうふつとさせる、とぼけた雰囲気、いやしい雰囲気も愉しかったのでした。
 コウモリ傘鳥さんによって5の目に連れてきてもらったアリスは、巣の中にある大きな卵を見て感動します。舞台奥、二階建てくらいの高さにあるセットの上です(全編、通して、舞台に向かって右側に階段がり、このシーンだけは、左側に滑り台がしつらえられていました)。これまでとは違って、遠目になる訳ですが、喜ぶ様は子供以外の何者でもなく、アリスの魅力が伝わってきました。「可愛い卵〜!」と、歓喜の声を上げるアリス、可愛いポイント☆☆☆です。
 卵を眺めていると、傘鳥の女房に怒られてしまいます。謝るところも、とっても可愛らしかったです。可愛いポイント☆☆☆☆です。
 黒尽くめな傘鳥の女房を、アリスは黒の女王と勘違いしてしまいます。そのまま認めてしまう傘鳥の女房。「あたしのことは黒の女王様とお呼び」と、高笑いしながら滑り台を登るのですが、「な〜んだ、カラスかあ」とアリスに言われ、「かはーっ」と滑り落ちていきます(笑)。個人的に妙に好きなところです。あっさり言っちゃうアリスも、可愛いポイント☆☆☆です。
 この5の目では言葉の意味が所々、反対になっているのですが(ビショップさまの呪いで・笑)、皆でイモムシを食べようかという時に、アリスも誘われます。「あたしにはとても食べられません」と断ると、食べられると受け取られることに。慌ててアリス、「食べられ・ますぅ!」と言い直し、「これは反対言葉だったんだあ」と独りごちます。この辺り、可愛過ぎです。可愛いポイント☆☆☆☆☆です。高いところにいながら、もう☆だらけ。
 そんな具合にちょっとした台詞でも可愛さを発揮する久美さんですが、傘鳥の子供たちの様子を眺めながら眠ってしまう芝居をします。恐らくここが、身体を何とか何とか休められるところでしょうか・・・。
 やがて子供たち全員の名付けが終わり、傘鳥の亭主が一人ずつ名を呼んでいきます。最後の「デル」を皆で叫んだ瞬間、小休止は終わり、目を覚ますアリス。「出る、出る、出ます出ます!」と大慌て。「デル、リデル」と思い出し、傘鳥の亭主に尋ねます。「5の目への道を教えて下さいっ!」と頭を下げます。ところがこれも反対言葉。「教え・ないで・・・下さい? え?」と、傘鳥夫婦を交互に見るところが、可愛いポイント☆☆☆☆です。
 傘鳥の亭主に連れていってもらうことになり、滑り台で下へと滑り下ります。「わあ〜☆」と笑顔で滑り下り、傘鳥の亭主に受け止められるところ、胸がきゅんとするほど可愛いです。可愛いポイント☆☆☆☆☆です!
 最後は傘鳥の亭主、傘を足下に置き、「ハリー・ポッター」ネタを(笑)。真ん丸眼鏡を掛け、髪型も元からそんな感じだったのだけれど、わざわざ髪を正してから「アープ!」(笑)。三度目の「アープ」で、やってやってとばかりに手招きをされ、アリスは傘をすっと持ち上げてあげるのでした(笑)。傘の上げ方、かなり上手だったのも、特筆すべき点なのです。

 
   「でもぉ、みんなに迷惑かけちゃうしぃ〜・・・」
 皆の言葉に甘えて帰ることもできたはず・・・。
 お家に帰って、休むことができたはずです。
 久美さんを突き動かしたのは、仲間のため、という優しさなんですよね。自分自身の稽古、ではなく、自分が欠けたことで皆の稽古に支障が生じることを、ただそれだけを心配していたんですよね。仲間の稽古のことを思いやっていたんですよね。
 自分のことを考えるなら、ここは休みます。後で頑張れば、自身の稽古は自身の責任で、幾らでも取り戻せます。
 「主人公はその目その目に存在している不思議な人たち」
 「その主人公たちの頑張りが、公演の成功に繋がる」
 FOXさんの公式HPに載せたコメントの中で、久美さんはそう語っています。アリスは唯一の脇役。
 だから、主役たちのために。主役陣の稽古のために。
 役者として、そんな気持ちもあったのかもしれません。  劇団の仲間のことを、いつも大切に思っている久美さんです。仲間のことを思える久美さん、具合が悪い時に「みんな」という言葉がいとも簡単に出てくる久美さんは、本当に素敵です。
 「でもぉ、みんなに迷惑かけちゃうしぃ〜・・・」
 でももすもももありません(笑)。
 紫色の顔して、普通こんなこと言えません・・・。

ピエル・ファントム=渡辺浩司さん
 象の法律学者、ピエル・ファントム。紳士然としているのだけれど嫌味が無く、陽気で愉しいキャラクターを演じていた渡辺さんでした。
 「6の目では湖〜で〜」ときょろきょろしながら歌うアリスに、まずは可愛いポイント☆☆☆です。湖を見つけると、大はしゃぎで階段を下りてきます。「湖だ湖だ湖だ〜!」と言いながら下りてくるのですが、公演期間中後半からはこの台詞は無くなっていました。リデルを助けに行く、という目的があるアリスに、これははしゃぎ過ぎ、という理由からでしょうか。
 湖に辿り着くと、ぺたんとお尻を付いて、湖の水をすくい、ぱしゃぱしゃやります。可愛いポイント☆☆☆☆。且つ、たった一人、客席に背を向けた状態、表情さえ見取れない状態でありながら、子供を演じる久美さんの迫力、存在感が鮮烈だったのも大きなポイントです。
 やがて「象の法律学者とボートに乗る」と、白の女王に聴かせてもらったヒントの歌を続け、ボートを探します。白鳥の形をしたボートです。見つけると、客席に背を向けた格好でボートにちょこんと乗るのですが、これだけでもうキュートな感じなのです。
 アリスの後ろ姿は劇中、たびたび観ることができるのですが、見れば見るほど子供としか思えない瞬間です。表情も見えず、ただ立っているだけでそう見えるのは、久美さんの演技が放つオーラのせいでしょうか。
 ピエル・ファントムとの絡みで、まず印象的なのは、「お花をどーぞ」と言われて、長い鼻をぎゅっと握るところです。今、思い返して思うのは、この辺りから、子供としてのアリスの迫力が増大していったということ。限り無く真に迫っていったということ。「電脳狐主義」というCDでかつて久美さんが、前回の再演について、「あたしが2時間半、積み重ねて積み重ねて積み重ねてきたものを〜」とおっしゃっていましたが、この積み重ねを感じるのは気のせいでしょうか。ともあれ、ここは可愛いポイント☆☆☆☆です。
 お鼻を掴まれた後、ピエル・ファントムはくしゃみをしてしまい、鼻をかもうとするのですが、象があの長い鼻をどうやってかむのかと、アリスは興味津々で覗き込もうとします。顔を背けるピエル・ファントムですが、アリスは左に回り込み、右に回り込み、という具合に何とか象が鼻をかむところを見ようとします。この時のアリスの表情が、とてつもなく良かったです。可愛いポイント☆☆☆☆。また、久美さんらしい演技でもあったと思います。
 さて、この6の目と言えば、なぞなぞでした。幾つかアリスとなぞなぞ遊びをしたピエル・ファントムは、とっておきのなぞなぞを出してきます。しかもそれに答えられないと、「しわが一気に増えます」(笑)。アリス、ではなく、久美さん、劇中、最大の危機です(笑)。このなぞなぞは日替わりで、神の声〜、とばかりに、アリスは毎回、客席に助けを求めていました。丁度、S席左側の方たちに視線を向けて。とっても嬉しい、ドキドキなサービス。でも、いざ視線を向けられると、胸がいっぱいになって、頭が真っ白になっちゃって、考えられないんですよね。
 以下、出されたなぞなぞです(問題の方はちょっと記憶が曖昧で、言い方が多少、違うかもしれません。順不同です)
・煙草を吸わない鳥は?⇒スワン(吸わん)
・猿と狐、おならが臭い方は?⇒猿
         (「猿の惑星」→さるのわ「くせえ」)
・ワープロで日本語入力が得意な昆虫は?⇒
                  カナブン(かな文)
・新聞をいつも賑わしている鳥は?⇒キジ(記事)
*何故か↑の問題だけ、2度出題されました。
・庭で逆立ちしている動物は?⇒ワニ(にわ→わに)
・タヌキの特技は種蒔き、ではそのスタイルは?⇒
    寝まき(「たねまき」から「たぬき」、たを抜く)
 客席から答えを教えてもらうと、とっても得意げな笑顔になるアリスが、最高に可愛かったです。可愛いポイント☆☆☆☆☆です!
 そして千秋楽では・・・。
・カエルとゴリラ、若いのはどっち?
 だったのですが、客席から教えてもらい、答えを言うアリス。ところがピエル・ファントムの口から出たのは「ファイナル・アンサー?」という言葉(笑)。迷ったアリスは「テレフォン」で(笑)、「ジーコジーコ」と口で言って、何とパパに電話を掛けます。無事、答え(尾の無い同士で同い年)を教えてもらうのですが、「アリス、今、どこにいるんだ!?」というパパの声を無視して、アリスは「ガチャ」と自分で口で言って切ってしまうのでした(笑)。でも「年なんて比べられる訳無い」と、それは不正解。久美さんのしわは一気に増えてしまったのでした(笑)。でも「冗談」ということで助かりました。
 さて話に戻り、ピエル・ファントム一人だと重くて沈んでしまうボート。でも軽いアリスが一緒に乗ると丁度良い重さになるという、変てこな理屈。沈みそうになるボートに慌ててアリスが乗り込み、「・・・セーフ」と太い声で言うところ、息を切らすところがとっても面白かったのでした。また、オールとして、いきなりピエル・ファントムが自分の両耳を引っこ抜くのですが、「うわあ!」とやっぱり太い声で驚くところが、良い感じでした。可愛い可愛いだけじゃなくて、この辺の子供らしさ、魅力の幅があるから、アリスは好きなのです。
 そして、可愛い可愛いは最後です。ピエル・ファントムの耳をオールに、ボートを漕ぐのですが、片っぽだけ動かしてぐるぐる回るボートの中で、大喜びするアリス。可愛過ぎです。可愛いポイント☆☆☆☆☆!

 久美さんにとって、今回ほどきつい舞台は今までに無かったかもしれません。
 前回再演時の「アリス〜」と、今回の「アリス〜」。
 両方、ご覧になった方であれば分かりますが、今回はオープニングダンスに参加しています。
 前回は、オープニングダンスの時が、初めの休憩時間だったそうです。しかし今回は、一緒に踊ったがため、休憩時間が短くなってしまいました。
 そのことをこぼしたこともあったそうです。
 「しかも、前回より体力なくなってるのに〜!」
 毎回、他の役の方の可愛い衣装を見ると、「ここでしか着られないから〜」と、休憩中にその衣装を着、しかも写真までお撮りになる、お茶目な久美さん。しかし今回に限っては、それもできなかったようです。
 因みに四日目、久美さんの左腕、関節の辺りに小さなバンソウコウみたいなものが貼られていましたが、これは喉を守るための予防注射をしたからだそうです。喉のためのビタミン剤のようなもの。
 舞台に立っている間、特に声を使う役者さんはよくやるものだそうです。お疲れなのは今回の場合、毎回そうですが、心配するものではないそうです。
 心配していた方々、やはり心配かもしれませんが、安心して下さいね。
 もう二度と自分がやることは無いだろうと思っていた、アリス・ドッジ。アリスをやることができる、自分より若い子らが沢山いる現状。自分の年齢、自分の体力に対する不安。最後の再演から10年が経ち、成長した自分を見せられることができるのだろうかという不安・・・。
 幕が開くまで不安だったという久美さん。更にはゲネプロもできぬまま、初日に挑まなければならなかった久美さんたち。
 思えば、アリスに懸ける久美さんの意気込みは、久美さんの口から遂に出たことは無かったように思います。
 友の会の会報やインターネットラジオの「演劇魂」でも、「アリス〜」への、アリスに対する明確な意気込みは聞かれなかったように思います。
 久美さんの中にあったのは、殆ど不安しか無かったのではないか、そんな風に思います。
 久美さんは何を糧にアリスに立ち向かったのでしょうか・・・。
 何が久美さんを成功に導いたのでしょうか・・・。

黒の騎士=柴山ゆたかさん
白の騎士=波多野和俊さん
 腰に馬の頭を付けていても何故か格好良い柴山さんのパワフルな黒の騎士と、どこまでもすっぽ抜けた波多野さんの白の騎士が素敵に面白かったです。特に白の騎士に関しては、前回再演の勝平さんのイメージが強かったのですが、何のその、異様なまでの個性でした。
 湖を渡り、7の目までやって来たアリス。馬のいななきと共に現れた黒の騎士の「蹴ちらすぞ白き者ども」という言葉に、アリスは見つからないよう、そろりそろりと歩きます。このカチコチした感じの動きが、ちゃんと子供らしさ全開になっていて、非常に良かったです。且つ可愛いポイント☆☆☆☆です。
 が、あっさり見つかり、捕まりそうになりますが、最初は勢いで、ピエル・ファントムからもらった花を奪われます。花占いを始める黒の騎士(笑)。その隙にアリスは舞台奥に隠れます、と言っても身体の殆どが出ています(笑)。しゃがんだ姿勢が、可愛いポイント☆☆☆。因みに花は黒の騎士が客席に向かって放り投げちゃいます。渡辺さん→久美さん→柴山さん、という豪華な流れできたお花のサービスでした。
 またしてもあっさり見つかるアリス。硬直した気を付けの姿勢で、「7の目では気を付けて。白い馬の力を借りなさい」と、早口で歌います。アリスのピンチだけど、可愛いポイント☆☆☆☆です(笑)。逃げ出すアリス。「あっ」と気の抜けた声で、いきなり脈絡も無く転びます。爆笑、ではないのだけれど、妙に可笑しくて可笑しくて、好きな瞬間です。久美さん、やっぱり天才かもしれません。
 黒の騎士が剣を高々と振り上げた瞬間、白の騎士が登場します。「正義の味方っ! 格好いいー!」など、嬉しそうに声援を送るアリスに可愛いポイント☆☆☆です。「白い夜には美しい〜」と歌いながら現れる彼は、ここまではアリスの方を見て手を差し向けています。アリスも満面の笑顔。が、「青年が良く似合う」とあっちへ行ってしまった瞬間、ええ?という顔になるアリスが良い感じでした。筆を割いておきたいところです。
 自分の歌にすっかり夢中な白の騎士。「かぷっ」と黒の騎士が馬の頭でアリスを小突き、「いてっ」と言うアリスも良いあんばいです。剣の刃を喉元に当てられ、「ヘルプ・ミー!」と叫ぶアリスですが、白の騎士は「それ、なあぜ?」と聞き返す始末。「なぜって」と、アリス、当たり前のように素手で剣を横に押しやり、白の騎士の元へと歩み寄ります(笑)。ここはメリハリが大きくなっていたせいか、前回再演より面白かったところです。
 とうとう怒り出す黒の騎士。彼の歌が入り、アリスは白の騎士の陰に隠れながら逃げ惑います。しかし、白の騎士は自分の歌を思い出そうとしてばかりで、しまいには振り向いた拍子に、馬の頭でアリスを弾き飛ばしてしまうのでした(笑)。
 そして黒の騎士の肩に担がれ、アリスはさらわれてしまいます。

 友の会の会報の対談で冒頭、こんな会話があります。
レオさん「〜新しいアリスをってあんの?」
久美さん「うーん、無い」
レオさん「・・・無い?」
久美さん「無いけど・・・」
 この後、会話は久美さんの役者としての天才振りへと流れていきます。
 「無いけど」の後に何が続いたのか、この対談では分からず終いでした。会報を開くたび、考えます。久美さんは何を言いたかったのでしょうか・・・。
 勿論、想像はできます。
 アリスは観客の皆さんと同じ目線であり、色々と不思議な人たちと出会っていく役割であり、受け身であり、ストーリーテラーであり、唯一の脇役であり・・・。
 これらのようなことを言いたかったのでしょうか・・・。
 或いは、可愛さの加減、元気さの加減、性格付けについて言いたかったのでしょうか・・・。それとも、自分の年齢や体力に負けないよう頑張る、といったことを言いたかったのでしょうか・・・。
 久美さんがアリスでやろうとしていたこと、アリスへの意気込み、アリスに懸けていたこと。
 難しく、考え過ぎなのかもしれません。
 アリスは久美さんにとって、これまでと同様、大小あれど一つの通過点であると思っています。久美さん自身も色々な芝居を演っていきたいとおっしゃっていましたし、まだまだ開いた花は色付くことでしょう。
 でも。
 久美さんがアリスに対して考えていたこと。
 それは何だったのか、って考えます。

城壁男のロック=福田真也さん
 「仮面ライダーに出てたよね」
 牢屋に入れられたアリスが、キャロル先生に向かって興奮して言う台詞です。可愛いポイント☆☆☆☆。正にそんな衣装で、怪人さながらの演技でした。上の台詞の後、「とぅっ!」とか「変身」とか言ってノリツッコミする回もありました。黒の女王について話すと、最後に「うふっ」とおかまっぽくなるところも個性的でした。
 さて、牢屋にいたのは、帽子を被っていたという罪で捕まってしまった、マッドランド・ハッセル卿とキャロル先生。「でもキャロル先生、帽子なんて被ってないじゃない」と、アリスは不思議そうに言います。するとキャロル先生は、おもむろに髪の毛を持ち上げます。かつらでした(笑)。黒瀬さんの身体張り過ぎの演技です。持ち上げられるまで、絶対に分からない出来のかつらでした。黒瀬さんに☆☆☆☆☆です。
 それを見て、びっくりしながらも笑っているアリスが、可愛いポイント☆☆☆です。因みに初日は、「初めて見た・・・」と、まるで素のように(?)呟く台詞もありました。
 この場面でのアリスの見せどころは、やはりチェシャーキャットに助けを求めるところです。立ち膝になって「チェシャーキャット・・・」と呟く様は、可愛いを超えて、美しくすらありました。「チェルビン=綺麗な子供」という言葉が本当にはまっていた姿でした。そして現れたチェシャーキャットから、ここから逃げ出す方法を聞くやりとりをする、懸命な姿は胸をドキドキさせる不思議な魅力がありました。
 チェシャーキャットのヒントから、城壁男を倒す歌「ロックンロール」を思い付くアリスたち。翌朝、裁判へと連れていくため、ロックは牢屋の扉を開けます。「出る、出る」と急かすロック。「出る」から「リデル」を思い出し、「リデル、待っててね」と一人の世界に突入するアリスでしたが、ロックに後ろから巨大な鍵でど突かれてしまうのでした(笑)。
 「ロックンロールよぉ!」
 怒鳴るアリス。一言ですが、実に久美さんらしい演技、久美さんらしい怒鳴り方だと感じた瞬間でした。
 「ロックンロール」の歌で、アリスたちはロックを苦しめます。走り回り、激しい踊りを、久美さんは頑張ってこなし、戦うアリスを元気いっぱいにキュートに演じていました。可愛いポイント☆☆☆☆☆です!
 ロックを倒した後は怒涛の展開です。
 黒の騎士が現れ、再びアリスたちは窮地に。しかし白の騎士が現れ、今度はまともそう。アリスにウインクをくれ、黒の騎士と一騎打ちです。が、剣を交えた瞬間、白の騎士は黒の騎士に剣を叩き落とされ、一秒で負けます(笑)。やられそうになる白の騎士。が、何と黒の騎士の馬「黒りん」(実は黒瀬さんの愛称・笑)が、白の騎士の馬「ミルフィーユちゃん・3歳」に恋していることが判明(笑)。二人、馬の台詞を喋って、告白タイムです(笑)。やがて二人、笑いながらぐるぐる回り、何処へと去っていくのでした(笑)。「白い馬の力を借りなさい」。白の騎士ではなく白い馬。確かにその通りだったのでした(笑)。
 そして・・・。

 久美さんが何を目指して、アリスを演じたのか。
 公演が無事に成功すること。お客様に喜んで頂けること、満足して頂けること。それらはきっと当然として踏まえて・・・。
 年を取った自分が、アリスとして観ている人に受け入れてもらえること。
 久美さんがおっしゃった通り、ここなのでしょうか。
 久美さんの胸の内に何があったか、私には想像しかできません。
 けれど、確かに言えることがあります。
 2時間半、出ずっ張りという、体力的・精神的に過酷な芝居、厳しい稽古の日々を乗り越えられたのは、久美さんと共にいた劇団員さんの力だったということです。
 今回、久美さんは、気持ちとして凄く弱かったと感じます。
 もし、久美さんの回りにいたのが「皆」でなかったら、どこかで倒れて負けていたって、凄く思うのです。挫けていたと思うのです。
 今まで書いてきたように、久美さんがあんなに可愛い、素敵なアリスを演じられたのは、あんなに子供になることができた原動力は、「皆」が久美さんを愛していたからなんだ、って思います。そして久美さんも、「皆」を信じて「皆」のために頑張っていた。だから、自分自身もまた頑張ることができたのだと思います。
 久美さんの力は小さくて、「皆」の力があったからこそだって思います。「皆」の優しさがあり、久美さんも「皆」を思いやっていました。「皆」も一人一人の力は凄いけれど、やっぱりこの「アリス〜」という巨大な舞台の前では小さくて、互いに互いを思いやって稽古に挑んでいたから、成功したのだと思います。
 そう思うんです。

黒の女王=宮下タケルさん
黒の女王のお付き=山本善仁さん
 荘厳な音楽と共に、とうとう黒の女王の登場です。最初に、善仁さん演じるお付きが舞台上部に、いかにも自分が黒の女王だって感じに現れます。因みに善仁さん演じるこのお付きは、一言の台詞も発さないのですが、とってもいい味を出していました。アリスたちを威嚇しながら、自信たっぷりな笑みを浮かべたりして、これは前回再演時には無かった役ですが、ナイスキャストです。
 そして真打ち、タケルさん演じる黒の女王が現れます。やはり、凄まじい貫禄です。初日は、思わず鳥肌が立ってしまいました。客席からは笑いが多少、起こっていたけれど(女王を男性が演じているのだから)、貫禄に圧倒された口でした。
 「おまたせ」
 椅子に座って、黒の女王の第一声。そう、「電脳狐主義」にも収められている、伝説のアドリブ。かつて、2時間半、久美さんが積み重ねて積み重ねてきたものを、たった一言でさらっていったという「おまたせ」。そして圧倒的な存在感。
 でも、今回は久美さん、負けていなかったのです。
 友達のリデルを助けるため、黒の女王に立ち向かうアリスの勇気。久美さんだって、凄い迫力でした。
 黒のポーンやロックたちによって捕らえられるアリスたち。一方的な裁判によって、瞬く間に追い詰められてしまいます。
 「何がためにお前のごとき白のポーンと私が口をきくものか」
 「ひっどおい・・・。デタラメだわー!」
 事ここに至って、舞台の上にいるのは、もう久美さんが演じるアリスではありません。
 アリスです。
 舞台に久美さんはいません。
 リデルを助けるため、さらわれた女の子を助けるため、キャロル先生やハッセル卿の命を救うため、黒の女王に立ち向かっている、ただの一人の少女です。
 影をちょん切らんと大きなハサミが迫る中、アリスは悲痛な叫び声を上げます。
 「チェチェチェのチェ、でも四つ目のチェはチェスってことで使っちゃったし・・・」
 一言一言が、ガンガン胸に響いてきます。
 そしてハッセル卿が8の目を開く言葉を見つけます。それはチェック。
 「チェーックッ!」
 遂にアリスはポーンからクイーンへと変身します。頭には小さな女王の冠、手には赤い杖。
 全公演、毎回、鳥肌が立って胸が熱くなった瞬間です。
 アリスは、女王らしい気品ある言葉遣いをして、黒の女王を問い詰めます。
 「この国で何も知らずに帽子を被っていた罪よりも、女の子を誘拐してきた罪の方がうんと重いはずです」
 しかし黒の女王はしらばっくれます。
 「しらばっくれないで!」
 「知らないものは知らないね!」
 「へーえ、そうなの」
 アリスは大人びた表情になって、舞台中央、丁度、真っ直ぐ黒の女王を見上げる位置に来ます。
 「なら、仕方無いわね・・・」
 そして、この瞬間を私は忘れません。
 黒の女王へと振り向いて、「メラ!」(笑)
 まだまだ子供なアリスは、「メラ」に本当に効果があるものと、すっかり思い込んでいたのです。可愛いポイント、☆☆☆☆☆です! この緊迫した場面での、このとっておきの笑いのために、4の目で笑わせつつ張っていた伏線。この思い切った姿勢がとても大好きです。胸のすく笑いです。
 そして「メラ」が通用しないと知ると、今度は「遠山の金さん」になっちゃうアリス(笑)。
 「やいやいやいやい、てめえたち!」
 と、たんかを切ってみせます。先述した言葉に矛盾した形になりますが、この「遠山の金さん」の真似をするアリスは、久美さんの役者としての魅力、久美さんという人が出す面白さに溢れていたように思います。とにかく観ていて、面白みがある、お腹がいっぱいになる。
 「金さんを知んねえのかい」
 真顔と太い声で言うこの台詞なんて最高です。
 それでいて、「〜桜をふぶかせて、悪をさばくの」と、首を傾げる黒の女王に金さんのことを説明するアリスは、正に子供で、可愛いポイント☆☆☆☆。
 「さあさあさあさあ! 王手でい!」
 決めるアリスでしたが、周りからは失笑が。
 たじろぐアリスに、黒の女王は遂に話し始めます。
 「そーれ見ろい!」
 客席にお尻を向けた格好で、黒の女王に指を突き付け、まだ金さんの真似をするアリス(笑)。可愛いポイント☆☆☆☆です。向かっていく勢いが凄くて、個人的に「メラ!」に次ぐ大好き名瞬間です。
 女の子らしくなさい、と注意され、しおらしくアリスは「はい」と答えます。爪先を後ろにちょん、と立てる仕草がやっぱり可愛くて、可愛いポイント☆☆☆☆です。
 階段を下り、黒の女王は全てを話します。驚愕の事実が告げられ、アリスの身体から気が抜けていくと同時に、観ているこちらは黒の女王の言葉に引きずり込まれていきます。久美さんの演技とタケルさんの演技の迫力がせめぎ合うかのように、舞台の上は張り詰めていきます。特にアリスと50年後のアリスである黒の女王が手の平を重ね合わせそうになるところは、息を呑むほどです。
 そして黒の女王は、「8の数字は〜」とアリスを翻弄しながら歌い出します。美川憲一ばりに(笑)歌うタケルさん。因みに千秋楽は、客席から舞台に上がる階段を下りて、S席最前列の前を通り過ぎながら歌ったのでした。さすがです。
 これは自分が見ている夢か、黒の女王が見ている夢か・・・。悩むアリス。頭を抱えて呻きます。
 「これじゃ、堂々巡りのクルクルパー・・・!」
 しかしチェシャーキャットのヒントの歌がまだ残っていたのでした。「ひかりーのこーにして」と、歌が流れ、チェシャーキャットが現れます。アリスの頭の中で流れているだけなので、黒の女王たちは静止した状態です。それをいいことに、チェシャーキャットは持っているおもちゃ(先っちょがトウモロコシみたいになっている)で、黒の女王を脅かしたりします。楽日は先端を飛ばしてみせ、更に千秋楽では、上にいるお付きに向かって飛ばしていました(笑)。善仁さんがそれを察知して、笑い顔になっていたのでした(笑)。
 そしてヒントを解き明かし、キャロル先生のカメラで、この世界の全てを写真に収めようとします。本物である黒の女王たちを写せば影に、影である自分たちを写せば本物に。立場が逆転するかもしれない。
 次々と影になっていく黒のポーンたち。最後に、アリスと黒の女王だけが残ります。闇に消えていく女王と、光に包まれるアリス・・・。
 胸の前で杖を握るアリスの、あの力強い表情を、生涯、忘れることは無いでしょう。

 久美さんご自身は演り納めとおっしゃっているアリス。
 私も、もう次は無いと思っています。こうして今までアリスの姿を思い返してきて・・・久美さんはもうアリスを演じ尽くしたような気がします。
 仲間と共に稽古を乗り越えながら、アリスという役において自分ができる、可能性の全てを模索して、実行して、全てを出し切ったのではないかと思います。そう思えるほどに、久美さんのアリスの魅力は、輝きは、壮絶なものでした。
 2時間半・・・。
 久美さんはアリスの魅力を積み重ねて積み重ねて、ポーンからクイーンへと、本当の意味で変身しました。7の目から8の目に掛けて、舞台の上にいたのは本当に久美さんだったのだろうか・・・。そんな不思議な気持ちになるほど、あのアリスの輝きは尋常ではありませんでした。
 積み重ねた、という言葉は適切ではないかもしれません。
 本当は、押し上げた、という言葉が一番、ぴったりかもしれません。誰が久美さんを押し上げたのか。それは共に舞台に立っていた「皆」。
 「皆」が久美さんを、アリスの魅力を押し上げたんだって思います。
 丁度、登場人物全員で踊る最後のダンス(主題歌をリフレイン)で、ラスト、舞台中央でアリスが持ち上げられたみたいに。

アリス・ドッジ=みんなの久美さん
 全ては夢の中の出来事。
 冒頭の朝が、舞台の上で再び繰り返されます。二階のベッドではアリス(ダミーの方です)が眠っています。
 鏡の向こうの世界で出会った「皆」を引き連れて、アリスはお家に帰ってきます。驚くお父さんとお母さんに向かって、アリスは幸せそうに「ただいま」を言います。
 「あー、おなか、ぺっこぺこー・・・」
 そして皆を振り向き、
 「きっとみんなもぺこぺこだわ」
*ただ一度だけ、「ぺこぺこ」の部分でこの台詞を噛んでしまった回がありました。客席に背を向け、「皆」の方を向いた状態です。あの瞬間、私は「皆」と久美さんの絆を見た気がしました。
 パンをたくさん焼いてちょうだいと、アリスはお母さんを急かします。
・・・『これはみんな私が見ている夢。
 私が目を覚ませば、全部消えてしまうの。
 だからその時まで、みんなでパンを食べて、お茶を飲んでパーティしましょ。
 そしたら私、その後で、二階の私の部屋で眠っている私を起こしに行くわ。
 でもあんまり騒いじゃ駄目。
 あんまりうるさくすると、眠っている私が目を覚ましてしまうから。』・・・
 「しーっ」
 足を開き、上体を倒して、両腕を広げ、人差し指を「皆」に向かって立てる、写真集「キツネのみた夢」に出ているあのポーズです。どうしようもなく涙が出てしまう、感慨深く、胸がいっぱいになるポーズです・・・。
 個人的な思いですが、「皆」がアリスを見つめているこのシーンは、これだけの人が久美さんと共に頑張ってきた、久美さんを支えてきたんだ、と、またしても胸が熱くなってしまう場面でもありました。
 そして。
 「しーっ。しずーかに」
 アリスが歌う最後の歌・・・。
 パンが焼け、「はーい」とアリスはお母さんの元へと走っていき、舞台右へとはけていきます。パンの入った篭を持って戻ってきたアリス(ダミーの方です)は「皆」に囲まれ、そして大騒ぎする「皆」に再びあの「しーっ」のポーズをします。
 二階で眠っていたアリスが目を覚まし、夢は終わります。

 久美さんのアリスはこれが最後。
 久美さんは自身の限界を超えて頑張りました。
 もうこんな苦しく大変な思いはさせたくない、というのが、これを書いている今の私の本音です・・・。
 もしもまたいつの日か、「アリス〜」があるとしたら、久美さんには「黒の女王」を演じてほしいなと思います。そう、「50年後のアリス」です。イメージがガラリと変わるでしょうが、彼女を久美さんが演じたら、非常に運命的で素敵だなと思います。FOXさん全体にとっても。
 でも・・・。
 インターネットラジオの「演劇魂」で、やめてやめて言っていた久美さんが、もしも再びアリスを演ったなら・・・。
 それはきっと、久美さんの勝ちだなって思います。役者として。
 うまく言えないけれども・・・、久美さんの勝ちだって思います。


久美さんについてのエピソードを
お聞かせ下さった、
末次加奈様、松本貴子様(五十音順)に
深く感謝を捧げます。
本当にありがとうございました。

 

      << Prev     Next >>