<舞台美術さん>




〜その3〜

 久美さんは、舞台の上で色んなことをしてきました。
 声のお仕事も数多くこなしながら、19年余り、ずっと舞台に立ってきたから当たり前ではありますが、色んな久美さん、というのは、FOXさんの舞台に立つ久美さんの、大きな醍醐味です。
 私などが知っているものだけでも色々で、ここには書き切れません。
 かの有名な「アリス イン ワンダーランド」では元気いっぱいな少女を、「私の青空!」では本が好きな知恵遅れの少女を、「踊子」ではポルノ女優を、「ギヤマンの仮面」では女優志望の田舎者を、「エナケン1」ではスリの和服美人を、「エナケン3」では天然な小説家を、「エナケン・ファイナル」では愉快な妖怪少女を、「シグナルとブランコ」では危ない商売風な劇団員を、etc、etc……。
 久美さんのお話では、やくざの姐さんや元ストリッパーというのもありました。
 目にしたもの限り、ここ10年を遡ってみても、久美さんの演技はこれまで述べてきた通りです。立っているだけでオーラを発し、リアルで、面白みのある、見がいのある、表情、仕草、台詞で大きな存在感を放っていました。役の個性、感情をしっかりと伝える演技で、様々な形で心を動かしてくれました。
 中でも一つ、「エナケン1」の「スリのシン子」という役は、時代としても役柄としても、現実から掛け離れたものでしたが、造形的なものではなく、至って自然でリアル。格好良さと色っぽさが同居した立ち居振る舞い、台詞回しで、強烈な印象を残してくれました。
 更に「エナケン・ファイナル」の劇中劇では、「クーニャン」という、チャイナ服姿の妖怪を演じましたが、こちらは荒唐無稽なお芝居の中、コミカルにキュートに演じていました。これもやはり見つめていると、作られた、というのではなく、自然さがあります。
 まんま久美さん。
 これはどの役にしても言えることなのですが、ああ、久美さんだな、って感じです。そう、いつも、はまり役だと思えるんです。
 久美さんご自身は全然、違う人間ですが、そういう感想を持てるほど、舞台の上の久美さんは自然体で、役を自分のものにしています。この辺も、久美さんを天才、と言わしめている一つの因かもしれません。
 また、上述した「エナケン・ファイナル」では、久美さんは一座の劇団員、という設定でありましたが、劇中劇が終わった後、喜んだり、憤慨したり、酔って陽気に、といった具合に、一劇団員として色々な表情を見せていました。こういったところのナチュラルな演技でしっかりと魅了できるのは、やはりバランス感覚があるということでしょう。
 久美さんは、舞台の上で色んなことをしてきました、と書きましたが、舞台の上の久美さんの魅力を語る上で、外せないことがあります。
 エロい、ということ。
 久美さん自身も、「月夜とオルガン」(久美さん初主演。オリエという、モテモテの女子高生)をもう一度、やるとしたら、自分はちょっとエロめのモモコ、と語っていらしたので、認める個性なのだと思います。
 ユーモアと同じで、エロチシズムもバランス感覚が無いと、魅力的に見せられないものです。そうでないところ(コミカルでないところ、エロくないところ)がちゃんとしていないと、お互い引き立ちません。
 「踊子」の南マリと西ユキ。
 脚を大きく見せた衣装の力も借りつつ、表情と振る舞いで、久美さんはエロっぽさを振り撒いていました。男性であれば誰でも、目がハートマークになっちゃうような、そんな感じ。ドキドキして、ベッドに入ってもドキドキして寝付けないような、そんな感じ。
 台詞回しも、きつさの中に性的魅力に溢れていて、やはり、無理の全く無い自然さ。舞台という枠の中で、リアルに演じていました。
 「シグナルとブランコ」の「化粧の濃い女」もそうでしたが、きつめの声と、優しさの中に妖艶さを含ませた声で構成された台詞回しは、とっても色っぽくエロいものでした。
 久美さんはそういった演技にも、非常に長けています。同じ演技でも、私のような素人から見れば、そういった演技は照れもあるし、うまく見せるのはとても難しいことではないかと思います。それを自然に、エロく見せられる久美さんの才覚は素晴らしいです。恋する女性を演じさせたら、久美さんの右に出る人はいないと、私は思っていますが、この点も、FOXさんの中で久美さんに敵う方はいないかもしれません。
 バランス感覚、という話では「ギヤマンの仮面」。最初は田舎者だった彼女が、段々と垢抜けていくのですが、このあんばいは見事、と言うより他ありません。なまりが少しずつ消えていくのだけれど、動揺するとちょっと出てしまう。服装と共に、歩き方や仕草も女っぽく変わっていく。久美さんが放つオーラにも、色気が入っていく。匙加減が絶妙で、だからこそ、夢と恋に苦しみながら頑張る彼女に、感情移入できたと言えるでしょう。
 生活のためSMクラブでアルバイトするのですが、そのシーンでは衣装も手伝って、ほのかにエロく、でも純朴さ、子供っぽさも残っていました。そういった加減を、ばしっと決めて演技できる久美さんです。
 舞台の上で色んなことをしてきた久美さん。このSM嬢もそうですが、同じ「ギヤマンの仮面」。物語の舞台となる劇団の入団テストでは、一人コントみたいなお芝居もしました。満員電車の中で一万円札を拾う、というもので、電車が止まる擬音を始め、「押さないで下さい押さないで下さい!」、「おじさんの膝に座っちゃいましたー」とか、ちょっと吉本が入った感じで、面白く演じていました。笑いを取るのが苦手とおっしゃる久美さんですが、何のその、最高に笑える、おまけに可愛いシーンを提供していました。
 「エナケン・ファイナル」では殺陣も決めていましたし、「エナケン3」、「やっぱり〜」など、キスシーンも何度かありました。「踊子」の南マリでは、エロい場面も演じました。酔っ払ったポルノ映画の監督に絡みの練習だと言われ、相方の男優と体位を作ってみせたり、でもやる気なんて無い彼女は監督が向こうを向いている隙に、相方に肩を揉ませながら、声だけ出していればいいやとばかり、甘〜い喘ぎ声を出してみせたりしました。
 といった風に、久美さんは舞台の上で色んなことをしてきました。ただ台詞を紡ぎ、喜怒哀楽を表現してきた訳ではありません。羞恥が伴うだろうシーンも色々、経験してきました。役の個性や感情を表現する、ということより、笑いを取ったり、エロく見せることに重きを置く場面(勿論、役の個性や感情は絡んできますが)でも、久美さんは比類無き魅力を持った女優さんです。
 ぱっと見、恥ずかしいだろうなと思う演技も、舞台の上の久美さんは、とても自然に、ばっちり決めてくれます。そうしたシーンも経験してきた久美さんを思うと、ある種の貫禄を感じます。役者だから、と言えばそれまでですが、生半なことではできないと思います。舞台に立つのが好きだからこそ、為せる業でしょう。
 そう思うのは、「やっぱりあなたが一番いいわ」。
 芝居がやりたい、という純粋な願望、情熱から、久美さん自らがプロデュースし、ベテランの役者さんたちと共に作っていった舞台です。自らの足で本を集め、もう一人の主演、百々麻子さんと共に選んだ、脚本。あぶない台詞やシーンも多々ある話です。が、それを選んだのは、久美さんだからできる役どころ、というのを、久美さん自身が何より分かっている、ということ。そして、そういったシーンも承知しておきながら、奔放に自然に演じることができるのは、やはり芝居が好きだから、選んだこのラブコメが大いに気に入ったから、と言うに尽きるでしょう。
 そして何より、これです。
 かつて久美さん自身、おっしゃっていましたが、久美さんは元来、気弱で上がり症で、西原久美子として人前に出るのは苦手だけれども、役を演じる、役になりきる時は、平気で色んなことを表現できるそうです。
 そんな久美さんの性質を考えると、役者という仕事は久美さんにとって、正に天職だったのだなと思います。
 現在の久美さんの輝きは、こうしたシーンも潜り抜けてきたからこそでもあると思います。
 そして、色んなことと言えば、やはり「サクラ」の歌謡ショウです。歌や踊りは言うまでも無く、ジャグリング、太鼓など、様々なことに久美さんはアイリス役としてチャレンジしてきました。更に今夏のスーパー歌謡ショウでは、ワイヤースタント、空を飛びます。
 ドリマガ5/10号でおっしゃっていますが、以前は年齢を気にして、新しいことを始めるのを尻込みしていた久美さんでした。しかし「サクラ」のメンバーと出会って、新しいことにチャレンジするのに年齢なんて関係無い、頑張れば何だってできるようになる、と意識が変わりました。「サクラ」は久美さんの役者としてのグレード、内面を高めてくれた舞台と言えるでしょうか。
 久美さんは天才と言われるほどの役者さんですが、この通り、決して完璧な存在ではありません。
 本番に至るまでは、或いは公演の最中でも、久美さんは考え、試行錯誤を繰り返しています。出来具合の素晴らしさが、久美さんを凄いと、他の劇団員さんに言わしめているのでしょうが、やっぱり久美さんは努力と苦労を重ねています。だから、弱音も出ます。FOXさんの公式HPや友の会の会報や色々なインタビューなどで、久美さんはよく不安や心配を吐露することがあります。悩みは、人に話すだけで楽になると言いますが、久美さんもそうであるのかもしれません……。
 久美さんは私たちと変わらぬ普通の人です。傷付くこともあるし、ショックを受け、落ち込むこともあります。お芝居が好きで、出たがりで、舞台の上にもっといたい、もっと喋りたいという情熱で、特別なことじゃない、単純な情熱を胸の奥底に秘めつつ、毎日、声のお仕事や舞台の稽古に臨んでいます。
 久美さんは、特別な人ではありません。
 でも……
 凄い人です。何が凄いか、いっぱい書いてきたけれど、舞台の上の久美さんの魅力は書き切ることができません。海の情景の素晴らしさを幾ら綴っても、百聞は一見にしかずです。
 海は無限に表情豊かで、色んな姿を見せます。勿論、自然で、誰が作った訳でもなく意図的な匂いも無く、いついかなる瞬間をカメラに収めても、そこにはばっちり決まった、心を捉える情景が写ります。ずっと見続けていても飽きることは無く、そして、また見たくなる。
 このコーナー名は<舞台美術さん>ですが、実際の舞台美術さんの仕事とは関係ありません。舞台の上の久美さんは、美術、と称していいほど、美しく、ばっちり決まったものだからです。観る価値があるものだから。お金を出す価値があるものだから。舞台の上の久美さんの魅力を書き綴った、このコーナーの名前に相応しいと思い、<舞台美術さん>としました。
 舞台の上の久美さんは、海みたいな魅力を持っています。久美さんの顔立ちは海という感じではないけれど、その広く深い優しさを思うと、久美さんは本当に海みたいな人かもしれません。
 FOXさんの中では、タケルさん、レオさん、勝平さんらと肩を並べる凄い役者さん、人気の役者さんですが、決して驕ることは無く、非常に謙虚で、明るく茶目っ気があり、天然で、とても優しく、皆から愛され、尊敬されている存在です。
 舞台の上の久美さんは、色んなものをくれます……。
 喜びや、痛みや哀しさや、恋心や、笑いや、ため息や、Hな気持ちや、ドキドキや、涙や、感動や・・・。時には感情移入して、久美さんの役と同じ気持ちになって、幸せを感じたり、苦しみを感じたりもします。
 それが気持ちいいから、また、舞台の上の久美さんを見たくなる。久美さんの舞台を見たくなる。久美さんが演じる役に会いたくなる。
 舞台の上の久美さんには、素敵なものがいっぱいいっぱい詰まっているんです。


2002年5月11日
そんな久美さんに感謝をこめて。
まだまだこれからの久美さんにエールをこめて。


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