貴方の希望に満ち溢れたその瞳が好きでもあり、嫌いでもあった。
貴方の瞳に映る私は、一体どんな惨めな姿なのだろう・・・・・・・・・。
真っ直ぐ前だけを見つめる貴方の瞳には、私なんて映る事はないのではないか・・・・・・・・。
だからこそ怖くて寂しかった・・・・・・・・・。
でも、逆に貴方の瞳は私に挫けてはいけないと言う事を教えてくれるの。
どんなに辛くとも、どんなに苦しくとも、立ち上がって歩み出す勇気をくれるの。
貴方は成長している。
私なんかが追いつけないぐらい、まるで風の様な速さで。
だから、私は風になりたいと思った。
* 第2話 光と闇の狭間 *
普段通りの日常が時と共に流れる中、今日は一部の子供達にとっては重要な1日だった。
何故なら、卒業試験を見事合格したアカデミー生達が下忍として新たな忍の1歩を踏み出す日だからだ。
穏やかな空気に入り混じる彼等の期待や不安が、柔らかい風に吹かれて里中を走りぬける。
そして此処にも、真新しい気持ちを胸に走る風が2つ・・・・・・・・・。
「よっしゃー!!俺の勝ちだってばよ!」
「はぁ・・・・・はぁっ・・・・・・・・・はぁ・・・・ナ、ナルト君っ・・・・・早いよぅ・・・・・・・。」
アカデミーの教室に大声を上げて走り込んで来たのは金髪の少年、うずまき ナルト。
彼の後ろから遅れて入って来た少女、 は頬を紅潮させ肩で息をしている。
額から流れる汗を拭い、ナルトは彼女に満面の笑みを向けた。
「ヘヘ、俺ってば火影になる男だからな!には負けらんねェってばよ!」
自信に満ち溢れた彼の瞳は優しく、そして強く輝いていた。
まるで太陽の様な輝きを持つ彼に、は思わず目を細めて微笑む。
一緒に居ると凄く暖かくて安心出来て、一緒に居るだけで自分も頑張ろうと思える。
彼女にとってナルトの存在はかけがえのない大きな物となっていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・あ、サスケ君だ・・・・・。」
ふとの視界に入り込んだのは、1人静かに席に着いている黒髪の少年、うちは サスケの姿。
彼女の呟きに表情をしかめるナルトだが、そんな彼を知らずにはサスケのもとへと駆け寄る。
彼女の背中を見つめながら、自然と己の拳には力が入り込む。
目の前にいる自分から目を反らされる事が無性に腹立たしかった。
本当ならその腕を掴んで、自分の傍から離れないように縛り付けておきたい。
彼女の口を封じて、自分以外の男の名前なんて喋れないようにしたい。
そんな独占欲が胸の奥で渦巻く。
「・・・・・・・・・・何で、サスケなんだよ・・・・。」
彼の言葉は、教室内のざわめきに掻き消された。
「・・・・・サスケ君、おはよう・・・・・。」
「・・・・・・・・あぁ。」
サスケのもとへと駆け寄ったは、おずおずと声をかける。
彼は一瞬だけ彼女に視線を移し、ただ短く返事をする。
沈黙が流れ、は俯きながらサスケから少し離れた席に腰を下ろした。
両親を早々に亡くしたはアカデミーに入る前から、うちは一族に身を置かせてもらっていた。
うちは一族の中でも、サスケは彼女と同い年だったため彼の家に長い間お世話になっていたのだ。
その当時はずっと一緒にいたせいか、とても仲が良くまるで本当の家族のようにも思えた。
笑顔が絶えない日々が続いていたあの頃は、にとってもサスケにとってもかけがえのない思い出。
だが、ある事件が起きたあの日以来2人は昔のようには戻れなくなってしまったのだ。
「・・・・・・・・・・(また、挨拶だけで終わっちゃった・・・・・・。)」
横目でチラリと彼を見つめる。
冷静をただひたすら装っているように思える彼に、は心を痛めた。
「何でそんなしけた面してんだってばよ。」
不意にかけられた言葉に対し、は顔を上げた。
不機嫌な表情をしたナルトは彼女の両頬を引っぱる。
鈍い痛みに表情を歪ませるの目には薄っすらと涙の色が見える。
「・・・・ぃ、ぃらいよぅ・・・・・・なるろ、くんっ・・・・・・」
「笑ってろよ。」
「・・・・・・・ほぇ・・・・・・・・?」
彼の力が弱まったせいか痛みが和らぐ。
目をちゃんと開ければそこには真剣な顔つきのナルトがいて、は言葉を失う。
空色の瞳の奥に真っ赤に燃え盛る炎の色が見えるようで、何だか怖いと思った。
「は笑ってる方が良いってばよ。だから、そんな暗い顔すんな。」
「・・・・・ぅ、うん・・・・・・・。」
ナルトは彼女の隣の席に腰を下ろし、狐の様に目を細めてどこかを見つめる。
二人の間に会話は無くて、教室の所々で聞こえる騒音がやけに耳をついた。
しばらくして、1人の若い男が教室に入って来る。
彼がやって来ると騒がしかった教室内も落ち着きを取り戻し、皆が席に着く。
彼はアカデミーの教師である、うみの イルカだ。
時に厳しく時に優しくと言った、生徒想いの良き理解者であった。
普段と違う雰囲気の中、彼は微笑み口を開く。
「お前等、まずは卒業試験合格おめでとう。アカデミーを卒業して、今日からお前達は下忍として任務をこなしていく訳だが
これからは3人1組に上忍が1人つく班を作り、その班を主に行動していく事になる。班の方は個々の能力が均等になるように
こっちでもう決めさせてもらった。それじゃ、早速その班を発表するぞ。」
「・・・・・・・・・3人1組なんだぁ・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・俺ってば、と同じ班なら問題ねェってばよ。」
突然の言葉には目をぱちくりさせる。
彼はニィ、と目を細めて笑った。
「あ、でもサスケのヤローとはなりたくねェけどな。」
サスケの事になるとまた少し不機嫌になる。
そんな風にコロコロと移り変わる彼の表情に飽きは無くて、は思わず笑みを零す。
「私も、・・・・・・・ナルト君と一緒の班になれたら良いな。」
照れ隠しのはにかみ笑いを浮かべた彼女の表情。
ナルトにとって彼女の言葉は心から嬉しいと思える物。
彼は満足気な笑みを浮かべた。
「・・・・・・・・・・次、7班はうずまき ナルト、春野 サクラ、うちは サスケ。それから、 だ。
能力の平均上、7班は特別4人1組の班になってもらう。」
「・・・・・・・・(あ、・・・・サスケ君も一緒だ・・・・・・・・・。)」
「ちょっと待ったァア!!イルカ先生、その班じゃ1人納得いかねェ奴がいるってばよ!!」
サスケが入っていると言う事でナルトはイルカに大声で抗議をする。
隣に座っているは少しだけ、冷や汗が噴出す感覚だった。
イルカは大きな溜息をつく。
「エリートの俺が何でサスケなんかと同じ班なんだってばよ!!」
「あのなァ、1つ言っとくがサスケはアカデミーの中でも最も優秀な成績で卒業してる。ナルト、お前はドベだ。
個々の能力を平均して班を作るとなると、自然とこうなるんだよ。文句を言った所で班は変えられないからな。」
イルカにはっきりとそう言われてしまった彼は、眉間に皺を寄せ奥歯を噛み締める。
そんな彼を見上げ、はナルトの上着をちょい、と控え目に引っぱる。
「・・・・・・ナルト君は、ドベじゃないよ・・・・・。」
「・・・・・?」
「私の中で、ナルト君は一番輝いてる人だもん・・・・・。ナルト君の良い所だって、いっぱい知ってるもん・・・・。
だから、・・・・・・・・だから・・・・・・・・・・・ナルト君は、ドベじゃないよ・・・・・・・・・・。」
彼女は上着の裾をギュ、と握り締める。
ナルトは笑みを零して、彼女の頭を撫でた。
「ありがとな。」
上手く言い表せてはいなくとも、自分を庇おうとする彼女の気持ちがただ嬉しかった。
君は僕と似ているから・・・・・・・・。
僕と同じ苦しみを知っているから・・・・・・・・。
だから、僕はこんなにも君の事が愛しいと思えてしまうのだろうか・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・それじゃ以上をもって、解散だ。昼食後、各班ごと担当の上忍の先生と合流するように。」
全ての班を発表し終わった彼は、教室を出て行く。
そして、再び騒がしくなる教室。
ナルトはの手を取り、一緒に昼食を取るべく共に立ち上がる。
だが、彼女の前には先程素っ気無い挨拶を交わした黒髪の少年が立っていた。
「・・・・・・・・サスケ君・・・・・・・?」
「話がある・・・・・・・・。ナルト、少しの間を借りるぞ。」
「はァ!?これからと昼飯食いに行くんだから無理だってばよ!」
「ウスラトンカチが。少しの間だって言っただろ、それぐらい待ちやがれ。」
「少しの間も無理だってェのっ!!だいたいな、今朝はあんな素っ気無い態度取ってたヤローが今更何なんだってばよ!」
「テメェには関係無ェだろ。・・・・・・・・・・・・もういい。とにかく、は借りるからな。」
「はぁっ・・・・・・・!?オイ、サスケ・・・・・・・!待てってばよ・・・・!!」
ナルトを無視し、サスケは彼女の腕を引く。
二人の間でどうして良いか分からない彼女は、今はただサスケの行動に逆らう事が出来なかった。
「・・・・・!」
振り返れば、そこには1人取り残されている彼の姿。
彼の表情は何だか悔しそうで、そして寂しさを感じる。
は眉をハの字に下げ、精一杯の笑みで彼に告げた。
「・・・・・ナルト君っ。すぐ戻って来るから、・・・・・・・そしたら一緒にお昼ご飯食べよ・・・・・!」
二人は、教室から出て行く。
ナルトは己のポケットから蛙のガマ口財布を取り出し、中身を見る。
金額はそこそこ。
彼はその財布を手に駆け足で教室を出て行った。
教室と比べれば、静かな場所。
人影はあまり無くて、聞こえるのは風に揺れる木々達の音。
は黙ったまま、彼の背中を見つめる。
「・・・・・・・悪かったな。無理に連れて来て。」
「あ、・・・・・・ううん、大丈夫・・・・・。でも、話しって・・・・・・・・・・?」
すぐに返事は来なくて、この沈黙がやけに息苦しく思える。
「・・・・・・お前とこうやって、二人だけで話すのはあの日以来だな。」
“ あの日 ”、その言葉はとても重い意味が含まれているとすぐに感じた。
蘇るあの恐怖・・・・・・・。
あの日が来てしまったがために、多くの物を失った。
「お前はあの日、何を感じ、何を思った・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「俺は悲しみと恐怖、絶望・・・・・・・・・そして、深い憎しみを感じた。・・・・・・・ただ、あの男をこの手で殺してやりたいと思った。」
「・・・・・私も、・・・・・・サスケ君と同じ事を、感じたよ・・・・・・・・・・。でも、私は・・・・・・あの人を殺したくない・・・・・・・・・。
・・・・・・・・サスケ君にも、・・・・・・・・・殺して欲しくなんかないよ・・・・・・・・・・。」
「あの男が全てを奪ったのにか・・・・・・・?」
分かってる。
あの人が一体どんな事をしたのか、この目で見てしまったのだから分かる。
許してはいけないと、分かってるはずなんだ・・・・・・・・・。
「・・・・・・・こんな事、・・・・・・・思っちゃいけないんだって・・・・・・・・分かってるの・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「また、・・・・・あの頃に戻りたいなんて・・・・・・・・・・・・・・。あの人は、大切な人達の命を・・・・・・・奪ったのにね・・・・・・・。」
本当なら、私も彼と同じ様に・・・・・・・・・あの人を憎まなくてはならないのかもしれない・・・・・・・。
けれど、私は何故かあの人を許そうとしている・・・・・・・・・。
まだ、大切に思っている・・・・・・・・。
もう一度、あの頃の様に笑い合いたいと思えるのは・・・・・・・・・・何故なのだろうか・・・・・・・。
「・・・・・・・・お前なら、そう言うと思ったよ。」
彼の手が、彼女の頭を優しく撫でる。
彼の優しい表情に、少しだけ胸が熱くなる。
「相変らず、優しすぎるな。」
彼はそう言って、来た道を戻り出す。
はまだ、動けなかった。
「・・・・・・・・俺は復讐者だ。お前が何と言おうと、俺は必ずあの男を殺す。」
心が痛かった。
彼の言葉は、あまりにも重く深く、辛い物で・・・・・・・・・。
そんな物を1人で背負っている彼を思うと、酷く心が痛んだ。
出来る事なら、私も一緒にその苦しみを背負いたい。
けれど、私にはどうしてもそれが出来ない。
私は、一体どうしたら良いのかまるで分からないんだ・・・・・・・・。
「・・・・・・・・ごめんなさい、・・・・・・・・・・サスケ、君・・・・・・・・。」
一筋の涙が頬を伝う。
頬を撫でる風が冷たく感じた。
「。」
「・・・・・・・・・・っナルト、君・・・・・・・・。」
「の分も弁当買って来たから、一緒に食おうって・・・・・・・・・・・・・・・どうしたんだってばよ?」
二人分の弁当を片手に、笑顔で声をかけるナルト。
だが彼女の涙を見た瞬間、心配そうに首を傾げる。
「・・・・・・・、何で泣いてんだよ・・・・・・・・・。サスケに何か言われたのか・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・ううん、・・・・・・・違うの・・・・。・・・・・・・・・・・・よく分かんないけど・・・・・・・・・・・涙が出るのっ・・・・・・・。」
涙を拭っていたら、彼が急に身体を抱きしめてくれた。
暖かくて、優しく包み込んでくれる。
なのに、涙はまだ止まらない。
「・・・・・・・・・ごめんなさいっ・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさいっ・・・・・・・・・・・。」
何に対して謝り続けているのかは分からないが、彼女はその一言をただ繰り返す。
優しさは時に残酷をもたらす物。
いつか彼女が壊れてしまうのではないかと、彼は彼女を失う恐怖に怯えた。
* 2話・終 *