どろっとした時間をくれる。
 久美さんが舞台の上にいる間は常にそうです。密度の濃い時間、と言うのでしょうか。久美さんが立ち、台詞を言い、動く。そこにいつも付いて回るのは、大樹のような存在感と頭がくらくらするほどのオーラです。それが、お芝居を観た、という深い充足感を与えてくれます。
 「大樹」と表現しましたが、一つ一つの表情や仕草や台詞の言い方を一本一本の枝とするなら、その一つ一つの中にも情況や相手役関係によって、幾つも枝分かれしていきますが、久美さんは正に「大樹」です。豊かな表情、お芝居は、一つとして同じ瞬間が無い、風に揺れる枝葉であり、太い幹は今まで蓄積してきた確固たる基礎(ウエストは太くないですよ・笑)です。ただのひいき目にならぬよう一つ比較をすると、私が最近、応援し始めた百々さんは視線で多くの感情を表現できる方で、久美さんは指先一つから感情を表現できる人です。
 「ギヤマンの仮面」というお芝居を例に上げると、なまりのひどい田舎者の少女が、上京し、段々とそのなまりが抜けていき、垢抜けていくのですが、その変わり方の按配は途徹も無く見事です。ちょっと抑揚になまりの名残があるところ、服装は衣装の設定上ですが、がに股から内股へ、立ちい振る舞いが女の子らしくなっていくところ、顔付きに色気が入ってくるところ。多くの枝葉を持っているからこそできる演技であり、その枝葉を役に合わせて、ぴったり震わせられる感性がある証です。そしてもう一つ、地中に大きく広がった根です。地中から貪欲に栄養を吸収する根のように、お忙しい中、色々と他のお芝居をご覧になっている点からしてそうですが、ベテランの方と呼べる今も、演技の勉強を続けているからこそなのです。当然、声優のお仕事からも、間の取り方などを始め、沢山のことを吸収してきました。

 舞台の上の久美さんが最も魅力的なのは、恋をしている女性の役です。恋をすると女性は、自分に対して努力するから外見的にまず綺麗になりますが、内側からほのかな色気も出てきます。久美さんが表現するそれには、心打たれます。時に、観ている自分も彼女に恋します。「やっぱりあなたが一番いいわ」の麗歌ありながその代表です。恋している感情が目に見えるほどに身体から溢れ出ていて、その一挙一動からは、心臓が高鳴るほどの色気を感じることができるのです。オーラ。最もそれが輝くのが、恋をしている女性の役です。
 これには、久美さんのルックスも大きく影響していると思います。そして何より、色気を出すことに非常に長けているからなのではないかと思います。FOXさんの中で、久美さんの演技をナンバー1と言う訳にはいきません。少なくとも片手で数える分には、久美さん以上の方がいらっしゃると思いますし、久美さんご自身もそう思っているでしょう。ですが、恋をする女性の役、色気のある演技、エロチックな雰囲気にかけては、久美さんの右に出る人はいません。

 久美さんは、誰よりご自分の力を把握しています。自分の魅力、自分が得意としている部分を分かっています。そして特に、自分に欠けている部分を知っています。観ている側からは十分です、謙遜です、と思っていても尚です。
久美さんはその欠けた部分を埋めようと、いっぱい弱音を吐きながらも、いつも努力してきました。努力するのは誰しも同じであり、久美さんも私たちと同じ人間です。「踊子」の時などは、マネージメントや苦手な踊りで苦労されていた久美さんですが、大変大変とおっしゃりつつも、いつものようにお稽古帰り、飲み屋さんに行かれたりもしました。
 でもいつも本番では、私たちの心をドキドキさせ、素晴らしい演技を見せてくれる。
 久美さんが、人よりちょっとだけ頑張ることができる人間だからです。けれど、その「ちょっと」が人はなかなかできないものです。好きなもののため、とは言っても、高い壁が現れば、挫けてしまうものです。
 久美さんはご性格上、弱音を沢山こぼしますが、心の底から大好きな舞台のため、その「ちょっと」で壁を少しずつ崩しながら、役の幅を広げ、演技のレベルを高め、存在感とオーラを大きくしてきました。消えていってしまう方が多い、厳しいこの世界で、20年以上も第一線で続けてこられたのは、弱音や明るい笑顔や可愛い言葉の陰で、人には出来ない「ちょっと」の部分の努力で戦ってきたからこそなんです。