ありました。
\r\n 久美さんの気持ちの入り方一つで、随分、変わってくる、一幕で最もデリケートなシーン・演技であったと思います。後退り方も回によって、大小、差がありました。ただどの回も、そんなアイリスの姿を見て胸が痛んだことだけは確かです。
\r\n レニがアイリスを庇い、マリアが制止します。自棄になったカンナはあたいが悪いのか?と皆に当たり散らします。その間、アイリスはレニの背後で、ジャンポールを、さながらジャンポールに抱き付くように抱き締め、肩を窄めて小さくなっています。そして最後にカンナは、ソファーを思い切り蹴り付けます。
\r\n それにショックを受けて……
\r\n 短く泣き声を出してアイリスは、ジャンポールに顔を半ば埋めるようにして、左側、舞台下手へと走り去っていってしまいます……。
\r\n 10回、観て、10回とも胸がちくんと痛んだシーンです。見事な久美さんの演技でした。
\r\n 走り去る姿から、アイリスの心の痛々しさが切ないほどに伝わってきます。久美さんが放つオーラの為せる業です。
\r\n また、ただこれだけの瞬間で、胸を打てるのは、いかに久美さんがアイリスというキャラクターを魅力的に積み上げてきたかという証でもあります。
\r\n アイリスの可愛らしさ、生い立ち、花組への思い、無邪気さ、元気さ、奔放さ、優しさなどを、しっかりと表現して、観ている者の心を掴んだからこそ、アイリスに没入して、アイリスの側に立って心配してしまう。カンナに責められるアイリスを心配してしまう。そしてその場を泣きながら逃げ出したアイリスに、胸を痛めてしまう。
\r\n 非常に見事な久美さんの演技です。
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\r\n\r\n\r\nその3.
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\r\n\r\n 一般の人々から出演者を募る、公開オーディション直前。審査員として花組が座る椅子が並べられた、劇場ロビー。椅子の上にしゃがみ、何やら台本と格闘しているカンナが一人……。
\r\n 舞台上手から、アイリスがスキップしながら(ジャンポールをしっかりと胸に抱いて)現れます。が、カンナの姿を見て、はたと足を止めます。顎を落とし、上目遣いになります。戸惑うような怖がるような、気まずそうな表情を浮かべるアイリスです。
\r\n カンナから顔を背けるように、半ばうつむかせ、舞台下手へと走り出します。泣き出しそうにも見える、必死な感じの表情です。
\r\n カンナの前を通り過ぎ、そしてぴたりと足を止めます。意を決したように、そこでアイリスはカンナへと振り返ります。左腕にジャンポールを抱え、右手は下ろした格好です。
\r\n 突っ張らかった声で、アイリスは言います。
\r\n「なにやってんのぉ」
\r\n 昨日のカンナはあんなだったけれども……。仲直りしたくて、頑張って声を掛けている様子が窺える、とっても素晴らしい久美さんの台詞回しです。意地らしくて、とっても可愛らしいったらありません☆
\r\n するとカンナは、よぉしっ、できた!と台本を閉じ、椅子の上に立ち上がります。そして黙って、アイリスに向かって手招きします。
\r\n え? という風に上体をそちらへと突き出すアイリス。
\r\n 再び手招きされ、アイリスは怖ず怖ずと、カンナの元へ。
\r\n ん!と、カンナは台本をアイリスへと突き出します。
\r\n「えぇ?」
\r\n と、見上げるアイリス。カンナのことを怖がって、まだ警戒している感じの疑問符です。びっくりして、台本を受け取れません。
\r\n 再び、ん! と、強い調子で、カンナは台本を差し出します。ちょっと間を置いて、アイリスは台本を受け取ると、(受け取ってから)ひったくるように自分の元へと引き寄せ、急いでカンナから少し離れます。
\r\n しっかり、勉強しろよ、とカンナ。
\r\n「え?」
\r\n と、アイリスは上体をちょっと突き出し、カンナを見上げます。
\r\n するとカンナは、歌謡ショウではすっかりお馴染みになった、ポテト、じゃなかった、さてと、と言い(初日と二日目はありませんでした)、頭使ったら腹減っちまった、と食堂へ、中央の階段を登っていきます(貸切公演では何と、頭減っちまった、になっていました☆)。
\r\n アイリスは、カンナを追い掛けようと階段の下へと走ります。
\r\n「あ、カンナっ」
\r\n 呼び止めようとするものの、カンナは行ってしまいます。ちょっと間を置き、首を右に、ちょこんと傾げるアイリス。一瞬だけれど、ここはすっごく可愛らしいポイントです☆
\r\n 口をちょっと尖らせ、困惑した表情で客席側へと振り返ります。そして台本を開きます。ジャンポールは左脇に抱えた状態。
\r\n 台本を見て、ページをめくり、アイリスは驚きます。目を見開かせ、口も半開きで、足も開いた格好です。
\r\n かえでさんが舞台上手から現れます。アイリスを見つけ、雲国斎先生、見なかった? と尋ねます。と、台本を開いているアイリスを見て、偉いわね、もう台本の勉強してるの、と褒めます。
\r\n アイリスは説明しようとして、何か言いたげな顔をかえでさんに見せます。が、うまく言葉にまとまらない様子。と、三味線の音がして、雲国斎が舞台下手から登場します。
\r\n ここでは客席から、待ってました! の掛け声が掛かるのですが、その日のノリ次第で、雲国斎の反応は様々でした。アイリスはそれを見て、カンナと台本のことは一先ず置いておき、かえでさんと笑い合ったりして、満面の笑顔を見せていました。
\r\n レニ、マリア、織姫が二階から下りてきて、雲国斎に挨拶します。レニの浪花節やる? という言葉に、雲国斎はまた三味線を弾き始めます。わたくしは薬用石鹸でよく洗ったのに雲国斎〜(毎回、変わっていました)などという風に、客席に向かって自己紹介しちゃいます。アイリスはそれを見て、とても愉しげに、可愛らしく笑います。
\r\n 話はオーディションのことに戻ります。第一次審査を通過したのが二十名、応募だけで三百名以上もあったという話を聞き、アイリスは身を乗り出します。
\r\n「わあ…………凄いね!」
\r\n 嬉しそうに、ちょっとうっとりした感じで、アイリスは声を上げます。
\r\n やがて、大神が舞台上手より現れます。
\r\n「あ、おにいちゃん」
\r\n こっちの準備はできたよ、と大神が言い、いよいよオーディションが始まります。
\r\n かえでさんに促され、皆、席に着きます。アイリスは左から二番目に座り、右隣が織姫、左隣(左端)がマリアです。
\r\n 最初、マリアが座る椅子に、アイリスはジャンポールを置きます。そして、ジャンポールをひょいと持ち上げ、マリアが座ります。ジャンポールを返すマリアと、笑い合い、じゃれ合う数瞬もありましたが、これはカンナはどこ? というかえでさんの質問と、アイリスが椅子に座るタイミングにより、あったり無かったり(黙って受け取る)しました。が、そこは言うまでもなく、久美さんの反応、演技は自然でスムーズです。